2016年10月14日金曜日

第1469話 ウサギに惹かれて湯島の夜 (その1)

ウサギが好きである。
いえ、飼うんじゃなくてウサギの料理ですがネ。
鶏の胸肉と大して変わらんじゃないか、
そういう方がおられるのはじゅうぶん承知しているが
実際の食味は微妙に違う。
ウサギのほうがチキンより肉質がキメ細かくデリケート、
上品な味わいがある。

忘れられないのはニューヨーク滞在時に
ちょくちょく出向いた一軒のトラットリアだ。
グリニッジヴィレッジにある、その店の名は「Il Cantinori」。

ここに行ったら外せないディッシュが二皿あった。
第一にスパゲッティ・ルスティカ(田舎風)。
第二は仔ウサギのローストである。
それがいつの間にかともにメニューから姿を消して大ショック。
ガッカリしたのが昨日のことのようだ。
自著「ニューヨークレストラン Best 225」からその稿を紹介しよう。

「Il Cantinori」(イル・カンティノーリ)

すでにメニューから消えてしまった、
仔ウサギ鞍下肉のローストは大好物でかえすがえすも残念。
トマトのシンプルな旨味が際立つ、
スパゲッティ・ルスティカも消えたが
こちらは今でも注文すれば作ってもらえる。

夏場に限り、プロシュート(生ハム)に
メロンとイチヂクの両方を添えてくれ、おいしさ倍増。
焦がしバターとサルヴィア(セージ)が食欲をそそる、
アニメッレ(仔牛の胸腺肉=リードヴォー)も上出来だ。

秋から冬へかけて
キジのローストと骨付きイノシシのグリルが
”本日のスペシャル”に顔を見せたら必食中の必食である。

おすすめ
蟹のタリオリーニ・クリームソース 
仔牛のラヴィオリ・サルヴィア風味

でありました。

ウサギには飼いうさぎと野うさぎがあり、まったくの別物。
英語ではラビットとヘア、仏語ではラパンとリエーヴル、
伊語だとコニッリオとレープレとなり、
それぞれ似ても似つかぬ単語が当てられている。
両者の区別に無頓着なのは日本語くらいなのである。

飼いうさぎの身肉が白身なのに比して、野うさぎのそれは赤身。
香りというか臭みもまったく異なる。
これは食べるエサの違いに起因するものと思われる。
フツーの人がいきなり野うさぎ料理を出されたら
まずお手上げ状態になること間違いなしだろう。

=つづく=

「Il Cantinori」
 32E. 10th St. Manhattan NewYork
 673-6044