2016年12月14日水曜日

第1514話 サヨナラをする前に (その4)

引き続き脇道を往きます。

振り返ればロンドンの「WIMPY」は楽しい職場だった。
ウェイター、コーヒーボーイ、シェフ、ディッシュウォッシャー、
みな他国から来た若者や中高年でまことに国際色が豊か。
スペイン人はプラシドにホセ、イタリア人のニコル、
トルコからはアリ、バングラディッシュのセディックもいた。
今でも顔と名前が一致して目に浮かぶ。

殊に印象的だったのは
ポルトガル領マデイラ諸島から来たマルチン小父さん。
何たってこの人、駅前広場にたむろしているドバト、
その中の幼いのばかり狙って捕まえちゃうのである。
哀れ小鳩はライスと一緒に炊き込まれ、
小父さんの週末の豪華なランチに変身する悲劇。
われわれ日本人スタッフは
ピジョン・キラー・マルチンと呼んで怖れておったネ。

もう一人、マデイラに近い、
スペイン領カナリア諸島出身のミゲル。
彼とは気が合って仲良くしていた。
ミゲル・ロドリゲス・ゴンザレスなんて
たいそう立派なフルネームの持ち主だった。

当時、「WIMPY」では
スタッフが適当に持ち寄ったカセットテープをBGMとして
終日、店内に流していた。
J.C.が持ち込んだカセットの中に
ビリーバンバンの「さよならをするために」が収録されており、
この曲にくだんのミゲルが痛く感動したのである。

よくせがまれて、かけようとしたが
CDと違ってテープの頭出しは面倒至極、
店が忙しい時間帯はずいぶん苦労した。
そんなことも今はなつかしい思い出、
わが青春の一コマである。

脇道走行はたいがいにして
そろそろメイン・ストリートに戻ろう。
テーマは「サヨナラをする前に」であった。

地下鉄の春日、あるいは後楽園から
至近の「FOUGAU」にいる。
選んだ小皿は
パテ・ド・カンパーニュ、小海老とマッシュルームのアヒージョ、
ニース風サラダ、それにフレンチフライドポテト。

パテが出色の出来映えで
これが1皿500円とはにわかに信じがたいほどだ。
ポストシアターのちょい飲みに打ってつけながら
メインディッシュも充実している。
あらためてメニューに目を通す。

=つづく=