2016年12月21日水曜日

第1519話 期待通りの焼きとん屋 (その1)

その日は2ヶ月に1度の渋谷参り。
そう、髪を理するため、若者の街に出没の巻であった。
東京メトロ千代田線・明治神宮前で下車し、
国立代々木競技場の脇を通って
渋谷の中心街に到達する。

髪の切り手はK子チャン。
もう十数年もの長きに渡って
首から上は任せっきりなのだ。
まだハタチそこそこだった彼女も
去年結婚して主婦になった。

ダンナはワインバー、だったかな?
いや、居酒屋かもしれないが
とにかく恵比寿の店で知り合ったコリアンである。
職業柄、帰宅が遅くなる彼女だが
それでも毎晩、夫婦仲良く晩酌に勤しむ由、
ご同慶の至りというほかはない。

へアカットの帰り道。
同じ道を原宿方面に戻るのはつまらないし、
かといって人混みすさまじい渋谷駅周辺には
目当ての飲み屋でもない限り、近づきたくない。
よってNHKの手前の坂を下り、
小田急線・代々木八幡駅方面に向かう。

この近辺は近年、奥シブなどと称されて
ちょっとした賑わいを見せ始めた。
小ジャレた飲食店が軒を連ね、
洋モノだけでなく、和モノの佳店にも事欠くことはない。

奥シブで一杯のつもりだったが
一本道を真っ直ぐ、代々木八幡の手前の
千代田線・代々木公園駅に到着。
そのまま電車に乗り込んでしまった。

となると、目的地は沿線の湯島、千駄木、町屋、
北千住あたりに絞られよう。
表参道で目の前のシートが空き、
普段はめったに座らないわが身ながら
腰を下ろして目をつむる。
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湯島なら「池之端藪」か「赤提灯」。
千駄木は「にしきや」か「くりや」。
町屋は「亀田」、「小林」、はたまた「ときわ食堂」。
北千住まで行き着くと、「永見」、「葵」、「大はし」か―。
そんなこんなを黙想していた。

「湯島、ゆしまぁ~」―車内アナウンスに促され、
無意識のうちに下車したのであった。

=つづく=