2017年6月21日水曜日

第1649話 60年の月日を数えて (その4)

60年前の伊香保温泉。
入浴すんで日が暮れて宴会が始まった。
子どもたちは末席(ばっせき)の一画に集められる。
社長の長女と長男、そしてJ.C.の3人。
子どもたちにも大人と同じ料理が供された。

わが身を振り返れば、お調子者だったんだねェ。
加えて根っからの酒好きときたもんだ。
何をトチ狂ったか、
日本酒をおチョコに7杯も飲んじまっただヨ。
文字通り、お銚子者だったわけである。

酔っぱらった挙句に
キレイどころ舞うステージに浮かれ出て
一緒に踊っちゃったんだから
まったくもって手がつけられない。
旅の恥はかき捨て。
6歳にしてその信条を身に着けてたんだネ。

そんな記憶が一気によみがえった、
「酒房 たちばな」である。
去年訪れた際に例の貼り紙はなかったから
貼られたのはわりと最近のことだろう。

はて、カウンターの中で酒や料理を取り仕切る、
マダム(女将というタイプではない)に
貼り紙の経緯を質してみるとするか・・・。
いや、待て、待て、
真相の究明は次回にまわしたほうがよさそうだな。
時間もあまりないことだし。
そんなことを考えながら
ワクワクする好奇心を胸の奥にたたみ込んだ。

生ビールを飲み干して日本酒に切り替える。
惹かれたのは山形県・米沢市の雅山流 葉月。
壁の推奨句には「あの十四代を超えた酒」とある。
ホンマかいな?

とにもかくにも米沢の町には所縁がある。
看過すること能わずの巻となった。
冷たくしたのを1杯所望する。
うむ、ウム、十四代を超えたというのも
あながちハッタリとは言い切れないぞ、コイツは。
スッキリ感の中にスゥーッと一本、芯が通っている。

新藤酒造店の手になる純米吟醸酒の原料米は
自前の田んぼで育てた出羽燦々。
初めて耳にする品種である。
何か適当なつまみを頼まなければ―。

=つづく=