2017年6月28日水曜日

第1654話 ぽんと背中をたたかれて (その1)

どんより曇った日の午後。
上野の松坂屋の地下にいた。
久々に煮込みでも作ろうか・・・
そう思って精肉売場にやって来たのだった。

目当ての牛スジはすでに売切れ。
となれば豚の白モツに切り替えようか・・・
いや、何だか煮込み作りがわずらわしくなってきた。
移り気で気まぐれでオマケに根気というものがない。
自慢じゃないけど自堕落な性格のために
今まで幾度の失敗を重ねてきたことか。

面倒な煮込みなんかやめて
簡単な豚しゃぶにしようか・・・
それなら近くの「吉池」に移動して
東京Xの薄切りバラ肉が一番だ。

そう思って精肉と鮮魚の売場の間をすり抜け掛けたとき。

  ♪   久し振りねと うしろから
     ぽんと背中を 叩いたひとがいる
     振り向けば なつかしい 
     羞(はにか)む様な 君がいた
     あれからどうして いたのかい
     素敵な恋を したのかい
     そんなに 綺麗になって
     別れたこと 悔ませる様に    ♪
         (作詞:五輪真弓)

シンガーソングライター・五輪真弓が
作詞・作曲を手掛けた「思い出さがし」。
1982年4月のリリースだが
さて、歌ったのは誰でしょう?

これが意外にも石原裕次郎でありました。
何でも二人は何かのパーティーで初めて出会い、
たまたま「銀座の恋の物語」をデュエットしたそうな。
その後、五輪が裕次郎の曲を
書きたいと言っているとの情報が伝わり、
渡りに舟とテイチクが発注したのだった。

歌の歌詞ほどロマンチックではないものの、
松坂屋の地下でぽんと背中を叩いた人がいた。
振り向けば、なつかしい顔がそこにあったが
羞むような気配はまったくないネ。

満面の笑みを浮かべて
口元からは白い歯がこぼれている。
遭遇したのはSかチャン。
はて、何年ぶりの再会だろう。

=つづく=