2017年6月29日木曜日

第1655話 ぽんと背中をたたかれて (その2)

上野松坂屋の地下でバッタリ会ったSかチャン。
にわかには何年ぶりの再会か思い出せなかった。
おそらく7~8年は経っているハズだ。
いや、もっとかな?

かつて彼女が勤めていたワインショップを
よく利用したのが縁で互いの仲間うち、
少人数の食事会を何度か催した。
それにしてもなつかしい。

昔からよく笑う明るい性格の彼女は明け透け。
むしろおツレの方のほうが羞んでいる。
所作控えめにしてかなりの美貌の持ち主なのだ。
女優だったら小津作品に出ていた頃の岩下志麻タイプ。

立ち話もなんだからそこいらで冷たいビールでも・・・
といきたいところながら
先方は予定が詰まっており、お急ぎの様子。
近々、レンラクをもらうということでそのときは別れた。

後日、メールが送られてきて
ワインでも飲みましょう、と相成った。
「よければ先日のお友だちもいかが?」―
ごく自然に誘ってみたつもり。
「フフフ、おあいにくさま、彼女はパリに帰ったのヨ」―
何だ、フランス在住なのか。

Sかチャン続けて
「ちょっとキレイな人みると、すぐこれなんだから。
変わってないネ。
見透かされちまったら致し方なし。
海を越えて呼び寄せることもかなわず、
パリだけにスッパリあきらめた。

互いのコンヴィニエンスを考慮して
落ち合ったのは足立区一の繁華街、北千住である。
訪れたのは駅から10分ほど歩くトラットリア、
「イル・ポルトローネ」だった。

この店は過去に一度、ちょうど5年前にオジャマしている。
前回とまったく同じ一番奥のカウンターに納まった。
珍しい造作で目の前はほとんど壁である。
カウンターでありながら
オープンキッチンの中はまるっきり見えない。
何だか秘密の隠れ家みたいで
このほうが落ち着いていいという客も少なくないだろう。

J.C.はイタリアのラガービール、モレッティ。
ビールを好まぬ相方は
グルジア(ジョージア)の赤ワイン、セペラヴィで始めた。
グラスを合わせ、積もるハナシの前に
取りあえずアンティパスティのみつくろいだ。

=つづく=