2018年8月17日金曜日

第1939話 匂いにおびき寄せられて (その1)

関東に梅雨明け宣言が出された頃だから
2ヶ月近く前だったろうか?
夜更けた東上野の裏町を歩いていた。
とある中華料理屋の店先を横切ると、何ともいい匂い。
そしてヤケに懐かしい。

立ち止まって確認すると、店名は「晴々飯店」。
これは”はればれ”でなく”せいせい”と読む。
四川省の省都、成都の家庭料理をウリにしている。
メニューをチェックすると、
リアル回鍋肉やらリアル青椒肉糸やら、
やたらにリアルが強調されている。
日本風にアレンジを施していないという意味だろう。
そうか、これが本場の四川料理の香りなのか。

懐かしさを感じたのは今は昔、
シンガポールに滞在していたときに
何度も嗅いだ匂いだったからだ。
もう四半世紀を超える以前のことで
以来、この匂いとの遭遇はなかったように思う。
しいて挙げると、千駄木の「天外天」に似ている。
これは訪ねなければ! そう思った。


そうしてめしともを誘い、やって来たランチタイム。
12時過ぎの立て混む時間帯である。
われわれはスンナリ席を確保できたが
ほどなく短い行列が形成され始める。
ふ~む、人気店なんだネ。
それにしても店内に漂う匂いに圧倒される。
シンガポールでたびたび接したものだ。

アサヒの中瓶を所望して菜譜の吟味。
やはりリアルに惹かれて
まずはリアル回鍋肉定食(880円)。
それに野菜好きの相方のため、
十宝菜定食(850円)というのを―。

配膳にかなりの時間を要するものと思いきや、
待つこと10分足らずでトレーが2枚運ばれた。
それぞれの主菜のほかに
ワカメ入りのかき玉スープ、刻んだザーサイ、
胡麻ドレの繊切りキャベツ、
そして黄桃缶を散らした杏仁豆腐。

”日本のモノとは全然違います”
メニューに記された通り、
回鍋肉は見た目も香りもまったく異なる。
豚バラ肉・ニンニクの芽・長ねぎ・玉ねぎ・にんじん。
以上が炒め合わさり、調味料は花椒・豆鼓・辣油。
味付けは濃く、辛味も手伝い、
白飯の進むこと、尋常ではなかった。

=つづく=