2019年10月8日火曜日

第2236話 夜は四谷の荒木町 (その1)

 久々の訪問につき、さんざっぱら歩いた下北から
都心に戻るため、電車に乗った。
通常は表参道経由の東京メトロ千代田線を利用するが
この日は気まぐれから小田急線で新宿へ。
とはいっても新宿は避けて通りたい街の筆頭格。
ここで飲むつもりはない。
J.C.が苦手とする東京の街は

一に新宿 二に渋谷 三、四がなくて 五に秋葉原

となる。
よって南口を出たら甲州街道沿いのスロープを東に降り、
新宿三丁目から御苑前へと新宿通りを一気に直進した。
頭の中では扇ひろ子の「新宿ブルース」がグールグル。

♪   夜の新宿 こぼれ花
  涙かんでも 泣きはせぬ ♪

この街は嫌いでもここを舞台にした歌は好き。
歌に罪などないからネ。

四谷三丁目を過ぎたらほどなく荒木町。
杉大門通りと津の守坂でサンドイッチにされたエリアは
都内有数の粋な飲み屋街である。
3年ほど前には短い一時期だったが
毎晩のように出没した一郭だから
相応の愛着を抱く土地柄である。

「おかげさま」という小料理屋風の店に初めて入った。
切盛りするのは女将ただ独り。
オネエさんとオバさんの中間のオネバさんである。
先客はカウンターに3人ほど、テーブルに1グループ。
カウンターの入口に近い席に座り、
女将の手がすくのを待ってビールを所望した。

すると1席置いて左隣りに居た年配の女性が立上がり、
冷蔵庫からサッポロ黒ラベルの大瓶を取り出して
運んで来るじゃありませんか。
何だ、なんだ、大女将かいな?

実はそうではなくって彼女は当店の常連さん。
ほとんど毎晩やって来る主(ぬし)みたいな人だった。
挙句は
「お注ぎしましょ、ホントはいけないんだけどネ」-
とか何とか言っちゃって、お酌をしてくれた。
もちろん女将は注意するでもなく、
離れた位置からニコニコと様子をながめている。
いやはや初訪問の当方は恐縮至極の巻である。

独酌で日本酒を飲っている主に
今度はこちらがお酌する番ながら
その貫禄に怖気づいたJ.C.、
しばし傍観を決め込んだのでした。

=つづく=