2019年10月10日木曜日

第2238話 アメ横裏のマツコ・デラックス (その1)

その日は小一時間ほど不忍池の水景に和み、
そろそろ昼めしをと、上野広小路にやって来た。
アメ横のメインストリートが尽きるJR御徒町駅前。
思うところあって1本手前の路地を右折する。
長いこと休業していたとんかつ屋が復活を遂げていた。
「まんぷく」はカウンター8席ほどの極小店だ。

先代が亡くなり、一時閉じていたが
一昨年、再開したとの情報を得ていた。
店内をのぞき、空席を確かめてから入店。
顔がよく見えないけれど、鍋前に陣取るのは倅だろう。

カウンターの内・外をさえぎるボードのすき間が狭く、
造り手と食べ手の視線が合わない。
客からすると店主の下半顔しか目視できないのだ。
おっと、奥には女性が一人。
奥に居るから奥さんだろうか? 
アゴしか見えんが取りあえず奥さんとしておこう。

サービスメニューのとんかつ定食を発注する。
味噌汁・お新香付きで900円とあった。
隣りの先客を差し置いて
こちらの定食がものの5分で出来上がる。

厚さ1.5cmほどのかつは横に細長い珍しいカタチだ。
一切れ味わってみると、肉質やや硬く筋切りも不十分。
脂身が少ないからとんかつの醍醐味を味わえない。
以前はもっとよかった気がするがなァ。

キャベツは手切りではなかろうがシンナリとして
浅草の名店「ゆたか」のしどけない繊切りに似ている。
これには感心したものの、
椀に半分しか注がれていない味噌汁の具は豚の端肉だけ。
切り落としではなく切れっぱしだ。
見た目貧相なうえ、恐ろしくしょっぱい。
完全に煮詰まっちゃってるヨ。
われわれは我慢できても、関西人にはまずムリだネ。

つぼ漬け風たくあんとキャベツ&きゅうりもみの新香は
豚汁同様にないほうがマシかもしれない。
盛りのよいライスは柔らかく、
ところによっては、雨になるでしょう・・・、
もとい、ベチャつくのでした。

卓上には食卓塩とキッコーマンに加え、
ウスターソースのほかにソースがもう1種。
てっきりとんかつソースかと思いきや、
濃度及び、粘度は中濃ソース以下である。
ウスターに近い漆黒の液体には黒い粒子がびっしり。
ヨソでは見掛けぬタイプの味わいは相当にスパイシーだ。
そしてソースはどちらも、これまたヒドくしょっぱい。
あとでノドが渇くこと必至なり。

=つづく=