2019年10月17日木曜日

第2243話 わが心の町中華 (その2)

余命いくばくもない千駄木「砺波」。
グラスを傾けるたびに
思いはつのり、未練心に蹴つまずく。
かくして古く良かりし東京の灯がまた一つ消えゆくのだ。
嘆くべし。

焼き餃子はもっちりとした皮にややゆるめの餡。
別段、秀でるところなかりしが
実直な造り手が醸しだす味わいに奥行きがあり、
クラシックラガーの苦味にじゅうぶん対抗してくれる。

町中華としてちょいと高い値付けの酢豚(1100円)は
これ以上ないくらい、いかにもにっぽんの酢豚。
爺ちゃん・婆ちゃんから孫・ひ孫に至るまで
四世代が安心して箸の上げ下げにいそしめる一皿だ。

同世代のわれわれはここで清酒に移行した。
本来は紹興酒を欲するところなれど、
残念ながらここにはない。
清酒は灘の生一本・菊正宗、銘柄に不足なし。

五目上海焼きそばはフツーのあんかけ焼きそばに
いろんな具材がトッピングされている。
ラーメンが化粧直しして五目そばに変身した感じ。
食べ手はあまりうれしくない。
それでも仲良く分け合い、美味しくいただいた。

渋る相方をなだめつつ、
菊正のお替わりとお初のカニ炒飯を追加する。
はたして・・・
塩味薄き炒飯は糖尿病と闘う人が食べても問題なさそう。

当夜はこれにてお開きにした。
しかし、ここで年貢を納めるJ.C.ではなかった。
あと半月で「砺波」が幕を降ろすというある日。
台風一過の秋晴れのもと、
白字に赤く”味自慢 中華料理”と染め抜いた、
暖簾をくぐるJ.C.の姿があった。

Why? ってか?
Because, 当店のマイベスト・野菜そばを食べずんば、
どのツラ下げて界隈を歩くことができよう。
野菜そばは醤油ラーメンの上に
キャベツ・玉ねぎ・にんじん・もやし・きくらげなど、
サッと炒めた野菜を盛りつけたもの。
神奈川県のサンマーメンにちょっと似ている。

普段は残すスープをすっかりすすり終えた。
オバちゃんに感謝の言葉を捧げ、
長きに渡ってお世話になった、
わが心の「砺波」に別れを告げました。

「砺波」 令和元年10月末日最終営業
 東京都台東区谷中2-18-6
 03-3821-7768