2019年10月22日火曜日

第2246話 とんかつ屋の「東京物語」 (その3)

鳴り物入りならぬ、瀬戸物入りの味噌汁のことである。
よみがえった記憶は幼少時、
まだ長野県・長野市に棲み、幼稚園に通っていた頃だ。
通いでウチに来ていたお手伝いさんがいて
その女性のご母堂がJ.C.を可愛がってくれ、
幼稚園が休みの日には徒歩数分のお宅へうかがい、
朝食をいただくのが常だった。

このお宅の味噌汁が陶器の茶碗に入っていた。
その後、上京して以来、
東京で味噌碗を目撃したことはただの一度もないから
長野だけの風習だったのだろうか―。

それはそれとして東京物語膳である。
「蓬莱屋」が使用するパン粉は肌理(きめ)細かい。
とんかつ屋というより串揚げ屋のソレに近い。
一口かつ、串かつ(ヒレと長ねぎ)、ヒレミンチと食べ進み、
いずれも水準に達しているが、なぜか満足度は低い。
ここは看板メニューのヒレカツでゆくべきだった。

あっさり系の揚げものだから卓上のソースはウスターのみ。
代わりに3種の塩が用意されている。
フランスとスリランカの岩塩に日本の藻塩は
際立った違いがないものの、フランスの岩塩に甘みを感じた。

キャベツ・ごはんのお替わりをするでもなく、
デザートのオレンジ・シャーベットをいただき、
今度はタオル地のおしぼりで手を拭い、レジに立った。
応対してくれたのは先ほどの中国系と思しき女性。
バイトだろうがレジまで任されるのは信頼の証しだ。
なるほど、教育がゆきとどいて笑顔は明るくチャーミング。
言葉使いもていねいで、女子卓球の中国代表、
丁寧選手を連想させた。

アメ横の雑踏を避け、
線路の反対側の御徒町駅前通りを上野駅方面へと歩く。
ビールが冷えてさえいれば立ち飲みでも構わない。
過去一度だけ利用した焼き鳥屋の前を通りすがった。
ガード下の「蔵どり」はハツモトがよかった記憶がある。

立て看板のメニューに表記された鳥の各部位に
ハツモトの文字はなかった。
ちょうど呼び込みのアンちゃんが
店頭に現れたので訊ねると、ハツモトありと即答。
即答されたら即入店するしかないっしょ。

スーパードライの中ジョッキ。
大山鶏のもも&ハツを塩で各1本、ハツモトはタレで2本。
以上を発注に及ぶ。
すぐ運ばれた生中をグビ~ッ! 一気にやっつけると、
隣卓でしゃべりまくる三人娘のうち一人と視線が合った。
長い海外生活で学んだことに、
こういう場面は軽くほほえむのがインポータント。
セオリー通りにそうしたら
何なのこのオヤジ! 言わんばかりに目線を外しやがった。
ケッ、可愛くねェな。

もも肉とハツはそこそこながらハツモトがしょっぱい。
塩焼き用に仕込んだのにタレで注文が入ったため、
タレの上塗りを施したものと思われる。
これじゃ旨さ半減だヨ。
文句を言っても始まらないし、
隣りのかしまし娘はピーチクパーチク。
多少時間をかけて2杯目を飲み干し、
早期の上野脱出を図りましたとサ。

=おしまい=

「蓬莱屋」
 東京都台東区上野3-28-5
 03-3831-5783

「蔵どり」
 東京都台東区上野6-4-14
 080-4838-0222