2019年10月28日月曜日

第2250話 阿部定事件の町を歩く

荒川区民ならいざしらず、
東京都民でも訪れる人とてほとんどない尾久の町。
とにもかくにもここはおかしな土地柄なのだ。
都営荒川線のほか、JR東北本線・尾久駅には
宇都宮線、高崎線が乗り入れてはいるものの、
乗降客数はけして多くない。

北区・昭和町にある尾久駅は”おくえき”なのに
荒川区の地番、東尾久と西尾久は
それぞれ”ひがしおぐ”、”にしおぐ”と”久”の字が濁る。
この町を知る者はみな、駅・町ともに”おぐ”と呼ぶがネ。
そもそも尾久の町がない北区に何で尾久駅があるんだヨ。

昭和11年(1936)5月
ここで日本中を震撼させる猟奇的な事件が起こった。
此度は事件について詳しく綴らぬが興味のある方には
大島渚がメガフォンをとった日仏合作映画、
「愛のコリーダ」(1976)をオススメする。
ちなみに誰が言い出したか知らないけれど、
昭和11年三大事件というのがあり、
2.26事件、阿部定事件、上野動物園クロヒョウ脱走事件を指す。

町屋2丁目、東尾久3丁目を経て
荒川線が尾久橋通りと交差する熊野前に達した。
ここで一度南下し、尾久本町通りを右折して商店街を散策。
途中の十字路は尾久銀座へ向かわず、
北上して宮ノ前駅そばの碩運寺界隈を歩く。
定が愛人・吉蔵を殺めた待合「満佐喜」はこの辺りにあった。

小台橋から隅田川上流をのぞむ。
落日にはまだ遠く、雲間から陽がこぼれ射して西空は明るい。
荒川遊園地前にやって来ると改装のために休園中。
かつて温泉が湧き出し、尾久の町が隆盛を極めた頃には
大人たちも楽しめたという娯楽施設も近年は集客力を失い、
訪れるのは小学校低学年層とその保護者ばかりとなった。
若者のデートスポットとしてはまったく不向き。
それでも2021年のリニューアルオープン時は
時代遅れを返上し、大きく生まれ変わる予定だという。

何のイベントか、園前の遊歩道に屋台がいくつか出ていた。
おっと、生ビールのスタンドがあるじゃないか。
渡りに舟というより、オオカミに仔ヤギだネ、コイツは―。
300ccほどのスーパードライがプラコップに注がれて400円也。

スタンドを離れ、静かな木陰でグビ~ッ!
さぞかし旨かろう、ってか?
それがネ、あんまり旨くなかったんだわ。
何となれば、ビールがヌルいんでやんの。
ヌルいビールほど不味いものはないのよねェ。
このときポケットのガラケーがブルブルっと来たのでした。