2011年12月13日火曜日

第204話 かつては無縁の高円寺 (その2)

2度目の高円寺ロケは焼き鳥屋だった。
駅北口から15分近くも歩くだろうか。
かつては大学があり、学生達が行き交った商店街も
今はさびれにさびれて街灯もまばらだ。

この通りでたまたま遭遇したのが「民生食堂 天平」。
民生食堂とは何ぞや?
戦後まもなく生まれた外食券食堂が
昭和26年に民生食堂に移行したもので
これにより外食券を持たない者も食事ができるようになった。
どちらも東京都が米飯の供給を統制するために
登録を前提に営業を促した食堂である。

「天平(てんぺい)」の前を通りかかったとき、
これは大変な店を探し当てたと胸がときめいた。
ロケ終了後にさっそく訪れると、
店主夫婦がのんきにTVの野球中継を観戦中。
パリーグのクライマックスシリーズである。
足元には1匹の猫が戯れ、心和む光景が拡がっていた。

スーパードライの大瓶(600円)を飲みながら
ごく自然に親父サンと会話が始まった。
夫婦揃って巨人ファンなんだと―。
よく見ればこの親父サン、
金田正一と国松彰を足して2で割ったようなご面相。
笑いをかみ殺してその旨告げると、ご本人はテレ笑いだ。

金田は判るが国松って誰だ! ってか?
読売巨人軍の主に1番を打った中堅手なんざんす。
シーズン最高打率はオールスターに出場した1963年の.268。
文字通りの中堅選手で巨人の選手でなければ
まずオールスターはかなわぬ夢に終わっただろう。

ずいぶん前に球界を退いたが今は実業家として活躍中。
ナボナで有名な「亀屋万年堂」の社長サンに収まっている。
というのも、亀屋創業者の箱入り娘と所帯を持ったから。
世界のホームラン王・王貞治が
お菓子のホームラン王のCMに出演したのもその縁なのだ。

ハナシというものは妙なところで絡まり合う。
「民生食堂 天平」の壁に何と王貞治のサイン入り色紙があった。
こういう偶然ってママあるんですよねェ。

女将サンも加わって野球やら猫やら、ハナシに花が咲く。
持ち家なので家賃ナシ、従業員ゼロで人件費ナシ、
だからこそ細々と商売を続けていられるそうだ。
注文したポークソテー(500円)は立派なサイズ。
ケチャップとウスターソースが利いた味付けも懐かしい。

その後も何度か足を運んでおり、
新さんま塩焼き定食(700円だったかな?)なんぞもいただいた。

さんまもさることながら沢庵が旨し

最寄り駅は高円寺だが地番は中野区・大和町。
是が非でも訪れるべし!とまでは言わないけれど、
訪れて後悔することはありますまい。
むしろ古き良き時代を偲ぶに必訪の1軒と言えるでしょう。
実に佳い店でした。

=つづく=

「民生食堂 天平」
 東京都中野区大和町3-10-14
 03-3337-2488