2011年12月22日木曜日

第211話 信濃では 鯉と目白と 野沢菜漬け (その2)

鯉のおあとは目白である。
目白といっても目白不動の目白ではない。
小鳥のメジロだ。

長野の生家の両隣りは靴屋と床屋だった。
この床屋のオヤジがよく山に入っては小鳥を捕らえてくる。
ある日、母親が目白を1羽もらった。
雀よりも小柄な小鳥は名が体を表し、
目の周りに白い縁取りがある。

目白は大の甘党で花の蜜を吸う姿が
町なかでもしばしば観察される。
世に広く”梅に鶯”と言われるけれど、
梅の花にやって来るのは鶯じゃなくて目白。
鶯は花蜜をほとんど吸わない。
ホーホケキョの鶯ほど美声ではないが
目白もまたチーチーとよく鳴く鳥である。

さて、母がもらった目白。
捕獲されてすぐに鳴くわけではなく、
何日か餌をやって飼い主に馴らさないと鳴いてはくれない。
それがやっと鳴き始めた頃のこと。
籠から取り出しては幼稚園の友だちに見せびらかす、
バカ息子が居たと思っておくんなさい。
何かのはずみで小鳥をつかんだ手を開くと、
ヤッコさん、この機を逃してなるものかとばかり、
木々の梢に消えてゆきましたとサ。

子ども心に「こりゃ、ヤバい!」と思ったもんネ。
イヤ~な予感がしたもの。
案の定、オフクロはたけり狂った。
空っぽの鳥籠をむんずとつかみ、
息子目がけて投げつけたもんネ。
これが頭に命中して、イテテテテと相成りました。
なおも腹の虫が収まらないと見え、
またもや家の柱に縛りつけられましたとサ。

そんな思い出のある目白だが来年の3月末までは
都の環境保全課に手数料を払って飼養許可を得れば、
1世帯あたり1羽に限り、飼うことができる。
飼いたくて飼いたくて仕方がないけれど、
猫の居る家で飼われたひにゃ鳥は枕を高くして眠れまい。
あまりに可哀相だからスッパリあきらめることにした。

最後は信州名物・野沢菜である。
北信州の野沢温泉近辺が本場のお菜だ。
10月も末になって秋が一段と深まると、
長野市内の家庭でも野沢菜の漬け込みが始まる。
近所の主婦が5~6人集まり、
協力し合って各家庭ごとに順番に漬けてゆく。
”自製自消”のわりにはけっこう大きな樽だった。

野沢菜の漬け込みはまさに晩秋の風物詩。
されど子どもが見ていて別段面白いものではない。
だのになぜか記憶に残り、今でもあの風景が目に浮かぶ。

秩父のしゃくし菜、近江の日野菜、京の壬生菜、安芸の広島菜、
いずれも旨いがやはり青菜漬けは野沢菜にとどめを刺す。
茶によし、酒によし、飯によし、おやきの具材にもまことによし。
ひいきの引き倒しのそしりを受けようとも
所詮、お国自慢とはそういうものであろうよ。