2011年12月28日水曜日

第215話 オペラの師匠

オペラが好きである。
でもこの国では高くて行けない。
東京で5回観るのならその料金で
ミラノやウィーン、あるいはニューヨークに行き、
同じ本数を観ることができる。
安いエアチケット・ホテル・レストランに甘んじれば、
旅行代すべて込みでだ。

オマケに上野の文化会館にせよ、初台のオペラシティにせよ、
ハコ(劇場)がイマイチ、いや、イマニだから
行けないのではなく、あえて行きたくない思いもある。
観客の民度の低さというか、
マナーのお粗末さも目に余る。
いくらなんでも幕間にフロアに座り込み、
持込みのおにぎりパクパクはないだろう。
オペラに限らず芝居やコンサートでも見掛ける光景ながら
到底、外国人には見せられない日本人の姿だ。

1991年の12月28日。
20年前の今月今夜、生まれて初めてオペラを観た。
場所はニューヨークのメトロポリタン・オペラハウス。
演目はヴェルディの「アイーダ」。
渡米後、5年経った頃のことで
すでにブロードウェイのミュージカルは何本も観ていたのに
オペラにはまったく縁がなかったのだ。

その1ヶ月ほど前の秋の日、ゴルフコースでのこと。
旧知のマネー・ディーラー、M銀行のF森氏と
1番のティー・グラウンドに立ったときである。
毎度、それなりのチョコレートをにぎってプレイしていたが
その朝はこう持ちかけられた。

「J.C.、今日ボクが勝ったらネ、
 1度オペラに付き合ってくれないかな?」
「エッ?オペラっすか?勘弁してくださいよ、
 第一、そんなガラじゃないですし・・・」
「まあそう言わずにサ、切符の手配もしておくし、
 ハンディを今日は6ツあげるからサ」
「へぇ~っ!6ツ?そりゃおいしいや、Done!」

腕に差はあるものの、6打ももらえば左団扇だろう。
そう思ってDone したのだった。
ちなみにDone というのは市場用語で取引成立のこと。

でもって・・・ホールアウト後。
クラブハウスに肩を落とすJ.C.の姿を見ることができた。
いや、ヤラレましたネ、それもこてんぱんに。

そうして観たのが「アイーダ」である。
ただ、観劇後の第一感は
「ミュージカルよりもオペラのほうが自分に合ってるな」―
このことであった。
2度目のお誘いは2ヶ月後の「セビリアの理髪師」。
もう確信しちゃいましたネ、オペラって実にいいモンだと。

お次の「リゴレット」は2週間後に自らチケットを取り、
ご注進に及んだものでした。
そしてこの「リゴレット」に心打たれ、
終生お気に入りの演目となったのでした。
♪ 風の中の 羽のように ♪
ルン、ルン、てなもんである。

以来5年余りの間、メトに足を運ぶこと150回。
毎シーズン30本も観たことになる。
今でも覚醒してくれたF森師匠には心から感謝しており、
お住まいのある武蔵野方面に
足を向けて寝ることはございません、ハイ。