2011年12月31日土曜日

第218話 大つごもり雑感

日本中を悲しみの底に突き落とした2011年も
ようやく今日でおしまい。
人それぞれに様々な思いが胸に迫りくる大晦日である。

明治の粋人は大晦日を大つごもりと呼んだ。
つごもりは月隠り(つきぐもり)の音が変化したもので
月の最終日、いわゆる晦日のことを指す。
そして年の最終日、大晦日が大つごもりというわけだ。

1894年、日清戦争が勃発した年に
樋口一葉が発表した短編小説、
「大つごもり」を読まれた方も少なからずおられよう。
この小説が世に出なかったら
この言葉が人々の記憶に残ることもなかったろう。

2006年の正月4日。
北千住のシアター1010で新派公演の「大つごもり」を観た。
ヒロインが死んじまうのか、生きながらえるのか、
観る者の気持ちに屈託を残す幕切れであった。

それはそれとして芝居がハネたあとは
出演者を交えての打上げである。
主演の波乃久里子サンはじめ、
六平直政サン、松村雄基クンを囲んでの宴だ。

この日、久里子ネエさんの妹御のC枝チャンから
会場の手配をおおせつかったのがJ.C.だった。
築地の河岸が開く前日のことで鮮魚類は基本的にアウト。
鯛や平目が駄目なら、泥鰌(どぜう)があるサと
選んだのが西浅草は合羽橋通りの「飯田屋」だ。

うなぎもよいが宴席には不向き、ここはどぜうの出番であろう。
彼岸河豚ならぬ肥満河豚さながらに
ブクブク太りやがった永田町のドジョウは大嫌いだが
江戸の食文化を今に残す下町のどぜうは大好きだ。

2階の大広間に十数名が打ち揃って和気あいあい。
このときであった。
目の前の席にいた松村雄基が
わが板橋高校の後輩であると判明したのは―。
以来ずっと、付かず離れずの交流が続いている。

12月に入ってからは連日のように師走の街に出張っている。
ただ例年より宴席がずいぶん減った。
訪れる店々のスタッフに訊ねたら
前年比の売上がかなり落ち込んでいるという。
株価の低迷、欧州の経済危機の影響も大きかろうが
これが最後の”自粛”なのだろうか。

今年を振り返れば思いがどうしても3月のあの日に向かってしまう。
忘れることなどできやしないし、許されることでもないけれど、
何とか心の奥底に仕舞いこんで
鍵をかけたい気持ちは誰しもが抱いていよう。

時節柄、地上波のTVをつけると、
これでもかこれでもかと同じ映像が流されている。
コソ泥以下の東電の説明に登場するオジさんは
いつも眼鏡のナントカ代理だ。
電気料金の値上げに突っ走るそうだが
「会社が立ちゆかねェんなら、国有化しかねェだろ!」―
こう叫びたい歳の暮れである。

それでは、またあした。
どうぞ、よいお年を!

「飯田屋」
 東京都台東区西浅草3-3-2
 03-3843-0881