2013年2月4日月曜日

第505話 田端でバタバタ (その2)

JR田端駅は、殊に南口は
山手線と京浜東北線が通る駅前とは思えぬ光景。
駅舎のある丘に立つと思わずこの曲が脳裏をよぎる。

 ♪  こんな淋しい 田舎の村で
   若い心を 燃やしてきたに
   可愛いあの娘は 俺らを見捨てて
   都へ行っちゃった
   リンゴ畑の お月さん今晩わ
   噂をきいたら 教えておくれよなあ ♪
            (作詞:松村又一)

1957年のヒット曲、藤島桓夫(たけお)の「お月さん今晩わ」。
似たテーマを持つ三橋美智也の「リンゴ村から」より好きだ。
尺八のイントロがもの哀しく、残されたオトコの心情を奏でる。
昭和30年代、猫も杓子も田舎から東京へ行っちゃったんだネ。

藤島桓夫といっても今判る人は少ないだろう。
’60年の「月の法善寺横丁」なら
あゝ、あの曲か、という方がそこそこおられるかもしれない。
目はパッチリと色白でおデコが広く、
鼻の大きい(大川栄策ほどじゃないけど)歌い手さんだ。

そんな田端に来ている。
ただし、南口よりだいぶにぎやかな北口のほう。
山手線の外側の田端新町に向かうほうだ。
「立飲スタンド 三楽」でキリンラガーを飲んでいる。
隣りが角打ちの「喜多屋酒店」で
以前そちらに行ったとき、たまたま見つけて立ち寄った。

当夜はのみとものM鷹サンと田端駅北口で待合わせ。
仕事が長引いて遅れるというメールがあり、時間つぶしの独酌だ。
突き出しに出た2切れの薄っぺらな蒲鉾でつまみはじゅうぶんだが
店のオバちゃんが手持ち無沙汰にしていたので
秋刀魚の丸干しを焼いてもらっている。

すると、意外に早く相方から駅到着の電話が入った。
秋刀魚はまだ焼けてもいないから、ちょいと焦るじゃないの。
駅に迎えに出るわけにもいかず、電話でナビゲートに及ぶしかない。
方向音痴で地図の読めないM鷹サンながら
簡単な道筋につき、数分後には現れてひと安心、やれ、やれ。

「お疲れさん!」とグラスを合わせた。
グラスというよりコップの雰囲気だなこの店は―。
大きなおでん鍋が湯気を立てている。
種を3つ選べていくらだったかな? 200円ほどだったと思う。
立飲みとはいえ、ヤケに安いや、オマケにけっこう旨いや。

そしておでんの上をいったのが焼き上がった秋刀魚の丸干し。
大根おろしが添えられて、これも250円くらいのもの。
前回は気づかなかったが、ここのつまみ類は一級品だヨ。
つい、大瓶をお替わりした二人である。

=つづく=