2013年2月14日木曜日

第513話 アネゴと味わうアナゴ (その1)

 ♪  あれは三年前 止めるアナタ駅に残し
   動き始めた汽車に ひとり飛びのった
   ひなびた町の昼下がり
   教会の前にたたずみ
   喪服の私は 祈る言葉さえ失くしてた ♪
               (作詞:吉田旺)

あれは21年前。
先立った最愛の夫を追って
あたかも殉死するかのように姿を消してしまったちあきなおみ。
好きでした、いや、今でも大好きです。
冒頭のレコ大受賞曲、「喝采」もさることながら
マイ・ベストスリーは

 ① 雨に濡れた慕情
 ② 夜へ急ぐ人
 ③ 朝がくるまえに

雨・夜・朝か・・・なんか出来すぎだなや。
シャンソンではアズナブールの「ラ・ボエーム」を
訳詞で歌っており、これもなかなかの歌唱。
稀代の名曲、「黄昏のビギン」は水原弘のほうにやや分がある。
「禁じられた恋の島」はイタリア映画の同名主題曲と早合点して
飛びついたが、まったくの別モノでがっかりもいいところ。
代わりにこれは園まりがカバーしている。
まりチャンは「太陽はひとりぼっち」や「女王蜂」など、
イタリアの映画音楽をいくつも持ち歌としてくれていてありがたい。

さて、あれは3年前。
何だ! そこにつながるのか! ってか?
へい、その通りでござんす。

そう、あれは3年前でござんした。
夜の下町で小股の切れ上がった姐御と袖すり合わせたのは―。
頭の上から三味(しゃみ)の音色が降りそそいできてたっけ・・・。
姐御と申しましても、アッシよりずいぶん年若ではありやすがネ。
以来、たまさか酒盃(さかずき)を交わす仲となりやした。
酒盃は交わしても、情けは交わさぬ、まっこと清い仲でござんす。

同伴したのは江戸前鮨におけるわが原点、
浅草は「弁天山美家古寿司」である。
おっとその前に例によって「神谷バー」に立ち寄り、
中ジョッキを2杯やっつけてきた。
ここの生中はほとんど他店の生大に等しく、
馬道を歩く道すがら、腹がタップンたっぷんと波だっていたものヨ。

「美家古」ではなんといってもにぎりだ。
鮨種を切ってもらってゆるゆる(ダラダラか)と飲む店ではない。
当然、大酒呑みは歓迎されない。
ほぼすべての種に入念な江戸前仕事が施されており、
酒より酢めしとのアンサンブルに配慮がなされている。
生々しい刺身を酢めしにおっかぶせただけの代物は鮨とは呼べない。

ビールはタップリ飲んできたので
のっけから大関の燗をお願いした。
傍らの姐御に異存があるハズもなく、素直に追随してくれた。

=つづく=