2013年2月21日木曜日

第518話 ジュリーとはばたく東京の空 (その2)

映画「太陽を盗んだ男」は快作である。
1979年度の「キネマ旬報」において
日本映画部門の第2位に輝いたのもうなづける。
ちなみにこの年のベストワンは
今村昌平監督の「復讐するは我にあり」だ。

「太陽を~」は荒唐無稽というか、現実にはありえない、
しっちゃかめっちゃかさが気にはなる。
そこだけが難点なのだが、まあ許容範囲かな。
ジュリーが東海村の原発から液体プルトニウムを奪うシーンなど、
ゴルゴ13も顔負けのスゴ腕ぶりで
一度は警察の手に落ちた自作の原子爆弾を取り返すところは
まるでターザンかスーパーマン。
文太にしたってヘリコプターに片手でぶら下がりながら
発砲する姿はランボーさながらだ。
CGのなかった時代なのに派手なカーアクションは迫力じゅうぶん。
スタントマンたちは身を削る思いをしたことだろう。

カメラは東京の街を丹念に追ってゆく。
空撮が多用されており、いつしか観るものは
ジュリーとともに東京の大空をはばたいているような気にさせられる。
渋谷の街をこれほどクローズアップした映画は珍しい。
東急本店が重要な舞台となっていて
映画はデパートの宣伝に多大な貢献をしたのではなかろうか。
ただし、流れの中で渋谷・東急に続き、
日本橋・高島屋が登場したのにはシラケきったけれど・・・。
造り手側はもうちょっと神経を使ってほしい。

似たような現象が地上でも起こる。
ジュリーと池上季美子が歩きながら会話を交わすシーン。
渋谷からアッというまに都営・荒川線の線路上に現れる。
うしろから三ノ輪橋行きの電車が迫り、二人は今にも轢かれそう。
次の瞬間には勝鬨橋の上を歩いているかと思ったら
いきなりお台場の第三台場に飛ぶ。
そりゃ東京めぐりとしては楽しいかもしれないが
都内をくまなく徘徊するJ.C.としては愚痴の一つもこぼしたくなる。

何せ、勝鬨橋で池上が
「親なんかはどうなのヨ?」―訊ねると、
「親はとっくの昔に殺した」―ジュリーが応えたのは第三台場だもの。
もう、やってらんない、観てらんない。
でも、この場所での二人のキスシーンはうつくしい。
ちょいとばかり、大島渚の「青春残酷物語」を想起させる。
あちらは川津祐介と桑野みゆきだった。

あるいは「復讐するは我にあり」の浜松競艇場が思い浮かぶ。
逆光でとらえられた緒方拳のシルエットが
きらめく水面(みなも)に映えて
日本映画史上、屈指の名カットになっていた。

=つづく=