2013年2月26日火曜日

第521話 夕陽とうなぎを追いかけて (その1)

 ♪  夕陽の丘の ふもと行く
    バスの車掌の 襟ぼくろ
    わかれた人に 生き写し
    なごりが辛い たびごころ ♪
        (作詞:荻原四朗)

裕次郎がルリ子とデュエッた「夕陽の丘」。
東京五輪の1年前、1963年のヒット曲だ。
ちょうど今年で丸半世紀。
5番まであり、(男・女・男・女・混)の順で歌われる。
男→女、ようするに1番と2番のあいだ、
そして3番と4番のあいだには間奏がないから
男がどんなに上手に歌っても拍手はもらえない。
拍手はみな女性の歌い手にもっていかれる。
珍しくも不公平なデュエット・ナンバーなのだ。

「夕陽の丘」が流行った年、J.C.は小学校6年生だった。
1年生で「嵐を呼ぶ男」と「錆びたナイフ」を観て以来、
裕次郎ファンに成りきっていたから
映画も歌もずっとフォローしていた。
ずいぶんマセたガキだったのである。

子ども心にもメロディーの叙情感が快かったし、
歌詞、殊に”バスの車掌の 襟ぼくろ” には心が動いた。
襟あし、いわゆるうなじは女性の大きなチャームポイント。
そこを覆い隠してしまう長い髪はキライだ。
当時、気に入りの女性歌手は
いしだあゆみ・槇みちる・梓みちよ・九重佑美子と
すべて典型的短髪のセシル・カットの持ち主だった。

歌手には多いセシル・カットも女優には少なかった。
本家本元はフランソワーズ・サガンの小説を
映画化した同名の「悲しみよこんにちは」で
セシルを演じたジーン・セバーグのヘアスタイル。
いや、実に可愛かったなァ。
そのままの髪型で再登場したゴダールの「勝手にしやがれ」は
もっと可愛かった。

現在はまず見かけぬセシル・カットだが
長い髪でもアップにすれば、うなじの美しさを強調できるから
世の女性たちにはどしどし襟あしを見せてもらいたい。

 ♪  人の子ゆえに 恋ゆえに
    落ちる夕陽が 瞳(め)にいたい
    さよなら丘の たそがれよ
    また呼ぶ秋は ないものを ♪

男女が合唱する5番。
”落ちる夕陽が 瞳にいたい” 、これがステキだ。
夕陽はいいよナ、夕陽はいいヨ。
胸に熱いものがこみ上げてくるもの・・・。
落ちる夕陽が見たくなって
その日、東京駅から列車に乗り込んだのだった。

=つづく=