2013年2月27日水曜日

第522話 夕陽とうなぎを追いかけて (その2)

東京駅から乗り込んだのは普段乗りつけないJR京葉線。
ディズニーランドに用がなければ、まったく無縁の路線だ。
蘇我駅でJR内房線に乗り換え、
目指したのは房総半島の先っちょにある館山。

狙いは二つ。
まず内房線から眺める東京湾の夕陽が
すばらしいと聞いていたので一度拝みたかった。
ただし、3時間近くも掛けて行って
夕陽だけ見て帰って来たのではうかばれない。
館山のとある老舗うなぎ店で晩酌を楽しもうというのが
第二の目的としてあった。
館山はむか~し海水浴に来たことがあり、
指折り数えてみたら、実に32年ぶりでしたとサ。

浜金谷を過ぎて保田と安房勝山のあいだあたりから
対岸の三浦半島に沈みゆく夕陽が臨まれた。
♪ 落ちる夕陽が 瞳(め)にいたい ♪

ガタゴト走る列車からのスナップにつき、
上手に撮れていないが観賞に堪えないこともないので紹介。

夕陽はいいなァ。
山には朝日がピッタリで、海には夕陽がシックリくる。
山登りには爪の先ほどの興味すらないJ.C.は
初日の出を拝んだことなど生まれてこの方、ただの一度もない。
「哀れなヤツよのう・・・」―登山家のあざけりが聴こえてくるようだ。

館山に到着。
すでに陽はとっぷりと暮れていた。
1年ほど前、パソコンにつながるプリンターが故障しやがった。
面倒くさいからずっとそのままにしてあるので
どこかへ出掛けるときに地図をプリントアウトすることができない。
頭の中にたたき込んできた地図を思い出しだし夜の道を急ぐ。
耳朶の奥では、ちあきなおみの「夜へ急ぐ人」が鳴り始めた。

 ♪ かんかん照りの昼は怖い
   正体あらわす夜も怖い
   燃える恋ほど もろい恋
   あたしの心の深い闇の中から 
   おいでおいで
   おいでをする人 あんた誰  ♪
       (作詞:友川かずき)

うなぎ店「新松」は深い闇の中に沈んでいた。
往時の隆盛を偲ばせる二階建て

三味(しゃみ)を爪弾く新内流しでも現れたひにゃ、
館山からところ代わって、はるか江戸の木更津ですな。
そう、「切られ与三郎」の世界ですぜ。
いや、あるんだねェ、こんな店舗がこの街には―。

誰もいない1階のカウンター席に案内され、
ビールを注文すると
”簡単なお摘み”と称する三点盛りが一緒に運ばれた。
ひしこいわしの酢漬け、山芋の梅酢漬けに
もう1品はチーズ入りの玉子焼きみたいなヤツ。
あまり面白くないのでうなぎの前に酢の物をお願いする。
それがこれだ。
ウワッ、多いだろコレッ!

J.C.は独りだヨ、家族連れじゃないんだヨ。
いや、参ったな。

=つづく=