2015年1月7日水曜日

第1007話 D坂下の交差点 (その1)

老若男女を選ばず、都内屈指の散歩の名所が谷根千。
言わずと知れた谷中・根津・千駄木の3エリアを総ずる愛称だ。
一翼を担う千駄木の中心は団子坂下の交差点附近で
東京メトロ・千代田線の千駄木駅前を不忍通りが南北に走っている。

この交差点を西に上ってゆくのが団子坂。
東に上がれば三崎坂(さんさきざか)。
江戸川乱歩の探偵小説、
「D坂の殺人事件」は団子坂を舞台にしている。
本作の発表は大正ロマンの最末期、大正13年だ。

作中、”私”は団子坂に面した「白梅軒」なる喫茶店で
アイスコーヒーを飲んでおり、
この店で知り合いになった名探偵・明智小五郎とともに
たまたま殺人事件の第一発見者となるのである。
ちなみにのちのち怪人二十面相と
数々の名勝負を繰り広げることになる、
明智探偵のデビュー作は「D坂の殺人事件」だ。

おかしなことに団子坂とは反対側の三崎坂に
「乱歩」という名の喫茶店が現存している。
店内はずいぶんキテレツにして店主もかなりの変わり者という評判。
ご興味のある方は一訪あられたし。
それなりの満足感とともに帰宅の途に着かれることになろう。

団子坂下周辺にはいくつかの名店・佳店が散在している。
食シーンに関して千駄木は根津や谷中よりも恵まれている。
いくつか列挙してみようか―。
煮穴子がウリの「すし乃池」、たこ料理の「三忠」、居酒屋「にしきや」、
焼き鳥店「今井」、家庭料理の「五十蔵(いすくら)」、
イタリアンの「イル・サーレ」、コーヒーハウス「やなか」、
いやずいぶんとあるものだ。

近くには森鷗外や夏目漱石の旧居跡が点在しており、
明治の文豪ゆかりの地としての風格も備えてもいる。
鷗外の旧居はかつて東京湾を臨めたところから観潮楼と呼ばれ、
鷗外生誕150年に当たる平成24年には
この場所に文京区立森鷗外記念館が開館している。

三崎坂下からよみせ通り、谷中銀座、夕焼けだんだんと
一連のコースはJ.C.もしょっちゅう徘徊している。
何せ、ウチのバカ猫のトイレ商品を扱う店が谷中銀座にあるものでネ。

谷中銀座を通るたびに目にするのは
2軒の精肉店が商魂たくましくして店頭販売するメンチカツ。
そしてそれに群がる老若男女である。
まあ、若いカップルは致し方ないとして
オバさんグループがメンチを路上で立ち食いする姿など見られたものではない。
オバタリアン(死語か?)なるもの、
単身の場合は借りてきた猫さながらなれど、
いったん徒党を組むと豹変、いや”豹”ではなく、”虎”へと変ずるのだ。
まっこと、始末に終えりゃあせんのよねェ。

=つづく=