2015年1月28日水曜日

第1022話 汝の隣人を愛せ (その7)

浅草のビヤホールで色めき立った、
ミレイユの気持ちが判らぬでもない。
それもそうサ、ひょっとしたら彼女の伯母さんは44年前のあの日、
キュロッツ駅でJ.C.にコーラを振舞ってくれた、
女子高生その人かもしれないんだからネ。

でもって、その結果。
冷静に判断したら、こりゃ間違いなく別人でありました。
まず、伯母さん曰く、
「まったく心当たりがありまっしぇん!」とのこと。
姪っ子たちに対するポーズもあろうが
トドメは女子高生時代に
しかも初めて逢った外国人に
キスするわきゃないときたもんだ。
ですよねェ、ハナからこんな奇遇があるハズはないんだ。

しかし、一連の成り行きにミレイユは
ケラケラけらけらと、ワラうこと笑うこと。
つられて姉のイヴォンヌまで目に涙を浮かべて笑ってる。
フン、まったく冗談じゃないぜ!
少しはこっちの身にもなってみろってんだ。
とは言いつつも、J.C.伯父さんの頬もまた、
ゆるみっぱなしであったけどネ。

その後はテーブルが和んで交わす会話も和気あいあい。
話題は浅草から京都、グルノーブルからパリへと、
やたらめったらあちこちを飛び回る。

フランスの政治にまで及び、
やれシラクの時代のほうがまだマシだった、
国を悪くしたのはサルコジだ、
オランドはまだ何もしちゃいないなどなど、
まあ、よくしゃべること、しゃべること。

そいでもって何かのはずみからテーマが歓楽街に移った。
パリのピギャール広場、ハンブルグのザンクトパウリ、
ご当地・浅草の吉原、続々と出てくる。
挙句の果ては「K」で何杯か飲んだあと、
姉妹を吉原のソープ街にご案内ときたもんだ。

 ♪ 梅は咲いたか 桜はまだかいな 
   柳やなよなよ 風しだい
   山吹や浮気で色ばっかり しょんがいな
   
   柳橋から 小船を急がせ
   舟はゆらゆら 波しだい 
   舟から上がって土手八丁 吉原へご案内 ♪

小唄の「梅は咲いたか」にも謳われた吉原。
もちろん、ご入浴に及ぶわけもなく、そぞろ歩いただけながら
彼女たちにとっては二度と得られぬ貴重な体験だったろう。

とまれ、シアワセな出会い、楽しい春の夕べでありました。
カフェでもビヤホールでも居酒屋でも
人生、汝の隣人を愛することが肝要であるぞなもし。

最後にちょっと意外な新事実。
本シリーズ前半に登場したミゲル&マリア夫妻だが
彼らそれぞれの生誕地、ブエノスアイレスとサラマンカは
驚くなかれ姉妹都市だった。
二人はソレを知っていたのかな?
いや、たぶんご存知ないのだろうヨ。

=おしまい=