2015年1月8日木曜日

第1008話 D坂下の交差点 (その2)

いえ、谷中銀座のメンチカツに群がるオバハンなどどうでもよい。
再びハナシをD坂下に戻そう。
D坂とは反対側のスロープ、S坂を上り始めて数十メートル、
J.C.が愛好する町の中華屋が1軒ある。
屋号は「砺波(となみ)」。
自著「J.C.オカザワの古き良き東京を食べる」からその稿を引用してみよう。

=野菜そばに恋をした=

 大好きな店である。
 近くにあれば中華そばが食べたくなったとき、足繁く通うことになろう。
 ここもまた初老のご夫婦だけの切り盛り。
 滑舌のよろしいオバさんの接客が丁寧で好感が持てる。

 店名から察するに、お二方もしくは
 旦那さんの出身地が富山県の砺波市なのかもしれない。
 おそらくそうであろう。

 ラーメン(500円)はスープに化調を感じても
 味のバランスは崩れていない。
 中細ちぢれ麺は粉々感が心地よく大好きなタイプ。

 焼きそば(600円)は柔らか麺のあんかけスタイル。
 豚小間・きくらげ・野菜のあんに練り辛子がたっぷり。
 「三丁目の夕日」、あの時代の味と香りがして
 酢を垂らしたら、より舌と鼻腔が反応した。

 週末のせいか、小体な店に近所の家族連れが数組詰め掛け、
 地元の人たちの愛着度がよく伝わってくる。
 壁の品書きには街の中華屋さんの定番以外に
 あじフライライス・いかフライライス(各700円)・
 かつ丼(750円)なども並んでいる。

 隣りの卓のお母さんが食べていた野菜そば(550円)がとても美味しそう。
 野菜そばは他店のタンメンとまったく同じ。
 どうしてもタンメンが食べたくなり、半月後に再訪。
 まずは餃子(550円)でキリンラガーの大瓶を飲む。
 その夜はオジさんが留守らしく、
 オバさんが調理場とホールの一人二役だ。

 やがて運ばれた清楚なタンメンに一目惚れ。
 純白の小さなドンブリもまた可憐なり。
 こんなに可愛いタンメンは東京中探し歩いても絶対に見つからない。

そうしょっちゅうは行けないけれど、
それでも年に一度はおジャマしている。
店内は狭くとも、この空間に身を置けるシアワセを実感している。

=つづく=