2015年1月20日火曜日

第1016話 汝の隣人を愛せ (その1)

去年の暮れと今年の初め、似たようなことが重なった。
どちらも舞台は都内有数のビヤホールである。
今話からその2件を語ってみたい。

クリスマスと大晦日にはさまった或る夜。
わりかし早い時間に引けた忘年会のあとだった。
何となく飲み足りなくてふらり立ち寄ったのは
日本のビヤホール史における草分け的存在の「L」。
首都圏に棲んだり、働いたりしている方なら
容易に店名を推量できるはずだが
ここはあえてイニシャルにとどめておく。

年の瀬の店内はごった返していた。
真夏の湘南海岸に等しいものがあった。
生ビールが美味しいのは何も夏に限ったことではない。
厳冬に暖炉の前で飲るビールもまた、夏場に劣らぬ旨さだ。

独り小卓で中ジョッキを楽しんでいると、
隣りの卓が、ちと騒々しい。
べつに酔漢が騒いだりしているんではなく、
外国人カップルがウエイターと会話を交わしていただけのこと。

ただし、接客係のイングリッシュはたどたどしいどころか
おまえサン、中学で何勉強してたの? てな稚拙さ。
かたや、外人ペアのソレもスペイン語の訛り激しく、
お世辞にも上手とは言えない。

しょうがないねェ・・・。
ホスピタリティのエッセンスみたいな男が
この光景をどうして看過できようか。
よって通訳に及んだわけだが
何のこたあない、客側は夕食を済ませたので
セルベッサ(ビール)を1杯飲ったら引き上げるつもりのところ、
店側はフードの注文を取ろうとしてたワケだ。
もっとも店は強制的に何か食わせようとする意図などなく、
コミュニケーションの欠如がハナシをややこしくしただけだった。

これにて一件落着。
と思ったものの、人生はそんなにシンプルではないわいな。
銀座の「L」にはかれこれ40年以上通っているが
昔は今ほど混まなかったからテーブルの間隔にもゆとりがあった。
ところが昨今は詰め込みやすいように小卓同士がニアミスしており、
くだんのカップルともほとんど同居状態だ。
当然、互いに沈黙のキープなんかできやしない。
ましてや連中にとって、J.C.はつかの間の恩人だもんネ。

つたない英会話教室が始まった。
結果、判明したのは二人が夫婦で
夫はアルゼンチンのブエノスアイレス出身、
妻はスペインのサラマンカ生まれということでありんした。
こりゃ、このままじゃ終わらんネ。

=つづく=