2015年1月12日月曜日

第1010話 D坂下の交差点 (その4)

谷中は三崎坂の中華「砺波」からハナシの流れで
鶯谷はラブホ街入口の居酒屋「信濃路」に来てしまった。
中身スカスカじゃないものの、
ころもガシガシの不味いイカフライに添えられた、
キャベツをつまんだところである。

いや、まいったネ。
ドレッシングに含まれた強烈な化学調味料とニンニク臭に見舞われて
心ならずも「ギャッ!」っと悲鳴をあげちまったじゃないか!
「太陽にほえろ!」のジーパン刑事こと、
松田優作じゃないけれど、「何じゃ、こりゃあ!」だったのである。

ビールとイカフライで計910円を支払い、夜明けの街に出る。
時刻はまだ5時半前。
街もホテルもカップルたちも、みな寝静まっている。
なかにゃ励んでる元気なのもいるやろう。
ふ~む、なんだか侘しいねェ。
ヒマに任せて自宅までとぼとぼ歩いて帰ったのでした。

「砺波」からまた脱線しちまった。
大瓶が半分ほどなくなったところで野菜そばが登場した。
醤油スープのタンメンといった感じ
何も気にとめずスープを一口。
うん、なかなかである。
続いて具の野菜を押しのけ、一箸引き上げた麺をすする。
モグモグやったその瞬間、われに返った。
ちょ、ちょっと待てや!
前話の「古き良き東京を食べる」の文章にあるごとく、
「砺波」の野菜そばは他店のタンメンに等しいハズ。

思い起こせば前回も意識はしなかったものの、
醤油仕立てだった気がする。
帰宅後、あわててPC内のフォトリストをチェックすると、
ありました、ありました、2010年に撮影したものが―。
ソレがコレ
両者、まったくの別物でありましょう。
どちらがいいかって?
そりゃあもちろん、以前の塩味スープのほうが断然いい。
見た目も味もネ。
美しさ、清らかさが雲泥の差でしょうがっ!
たかが汁ソバ一つでそんなに熱く語らなくっても・・・
読者の声が聴こえてきそうだが
J.C.が一目惚れしたのは以前の野菜そばであって
此度のどんぶりに恋心は芽生えんのですヨ。

あらためて見比べると、
白雪姫ともののけ姫ほどの違いがある。
これは近々、また訪ねてオバさんを問い質さねばならない。
いったいどんな経緯(いきさつ)があったのだろうか。

そう言やあ、もう一つ気になっていることがあった。
当店の目の前の小さな交差点を北に走るのがよみせ通り。
この通りに同名の居酒屋「砺波」がある。
そうそうある屋号ではないし、何か因縁がありそうだ。
常々、中華屋のオバさんに訊こうと思っていながら
つい、つい、忘れてしまっている。
いよいよアル中予備軍にとどまらず、
アルツ予備軍にも片足突っ込んでいるやもしれまっしぇん。
あ~、ヤだ、ヤだ。

=おしまい=

「信濃路」
 東京都台東区根岸1-7-4
 03-3875-7456

「砺波」
 東京都台東区谷中2-18-6
 03-3821-7768