2015年1月23日金曜日

第1019話 汝の隣人を愛せ (その4)

浅草1丁目1番地のビヤホール「K」にいる。
他店の大ジョッキ並みのサイズを誇る中ジョッキを飲んでいる。
つまみは今が旬のかきフライだ。
有楽町の老舗ビヤホール、
こちらは冬場を迎えると、かき料理専門店として脚光を浴びるのだが
「L」のそれには遠く及ばない。
及ばなくとも一応、真っ当なかきフライのレベルには達している。

ポケットのケータイがブルルッときた。
メールではなく電話のほうだ。
掛けてきたのは鎌倉ののみとも・P子。
店外に歩み出、サンプルケースの前で通話を終えたとき、
突如、英語で話しかけられた。

振り向くと声の主は赤みを帯びた茶髪の女性。
その隣りにもう一人、こちらは金髪に近い。
明らかに外国からの来訪者である。

「Excuse me 」とこられたから
「May I help you ?」と応じた。
彼女たちの質問の内容は
このビヤホールで飲みたいのだが
どういうふうに注文したらよいのか?
電気ブランなる飲みものとはいったい何ぞや?
オススメの料理は何か?
というものだった。

手短かにすべて答えて店内に導き入れたとき、
またもやP子からの電話だ。
女性たちを1階のチケット売場に連れてゆき、
再び外へ出る。

急ぎ戻って店内を見渡すと、
ちょうど二人がジョッキを合わせるところ。
結局は薬局、飲みかけの中ジョッキを自分で運び、
彼女たちのテーブルに移動した。

互いの自己紹介により、
判明したのは二人が姉妹であること。
声を掛けてきたのは妹のほうでミレイユ。
3歳年長の姉はイヴォンヌ。
ともにフランスはグルノーブルの生まれだった。

1968年に冬季五輪が開催されたグルノーブル。
その模様をクロード・ルルーシュがフィルムに収め、
フランシス・レイが音楽を担当したのが
仏映画の「白い恋人たち」である。

ここでまたもや1971年の欧州旅日記を紐解かねばならない。
グルノーブルに到着したのはトレド観光の4日前、
4月26日のことであった。

=つづく=