2015年1月16日金曜日

第1014話 理髪のあとさき (その2)

渋谷は神山町の角打ち、「丸木屋商店」で独り立ち飲んでいる。
先客は中年のカップルにリーマンの上司と部下の二人組、
計4人だけである。

壁に貼り出された日本酒のリストを見上げていると、
目の前で手持ちぶさたにしていた女将から一声掛かった。
何でも酒造からの好意もあり、
正月の6日から9日までの期間限定で八重寿の二級酒を
普段330円のところ、300円で提供しているとのことである。
たった30円の値引きながら、こういうものは縁起モノ。
素直にオススメに従い、ちょいと熱めの燗にしてもらう。

つまみは先刻頼んだ煮込みだけでじゅうぶん。
それでも品書きから目を離さない。
冷奴は1丁が450円、半丁だと240円。
厚揚げ焼きは470円で油揚げ焼きが250円。
味海苔w/6Pチーズなるものがあり、これは170円。

いかにも角打ちらしい手の掛からないメニューが主流だ。
レンジで温めたり、お湯を注いだりするだけの手抜き品が多い。
おでん・焼きそば・焼きおにぎり・スパゲッティ・カップヌードルあたりはともかく、
さとうのごはんてのはちょっとねェ・・・。
第一、酒屋の角打ちでごはんを食う客がいるのかい?
もしいたとしたら無粋極まりないぜ。

ぬる燗と熱燗のちょうど中間の上燗についた二級酒が旨い。
奇をてらわぬ昔ながらの懐かしい味がする。
やはりにっぽんの酒、日本酒はこうでなくっちゃ。

そうこうするうち、時間となってヘアサロンに赴く。
昨年、コリアンの青年と所帯を持ったK子チャンに
髪を切ってもらい始めて10年余りの月日が流れているはずだ。
あどけなさの抜け切らなかった彼女も今や人妻、
こちらの髪に雪がちらつき始めるワケだヨ。

訊けば、やさしい旦那だそうで、それなりのシアワセをつかんだ様子。
けっこう毛だらけ、猫灰だらけでごじゃりますがな、もう!
悩みのタネは食べものの好みらしく、
互いに相手国の味になかなかなじめないんだネ。

そんな彼女、年末年始は京都で過ごしたとのこと。
京都には彼女の実姉が嫁いでいる。
その節の京都みやげ、「あーじや」の抹茶チョコをいただく。
甘味にうといJ.C.は知らなかったが世に名の知れた逸品であるらしい。
猫に小判、豚に真珠、象にダイヤモンドとはこのことで
まっ、気が向いたら夜更けにブランデーの友にでもするかの?

=つづく=