2015年1月26日月曜日

第1020話 汝の隣人を愛せ (その5)

浅草のビヤホール「K」で遭遇した仏人姉妹はグルノーブル生まれ。
おかげで欧州旅日記を再び開くこととなった。

ときに1971年4月25日。
最近、とみに為替相場を騒がせているスイスフランだが
当日はスイスの首都・ベルンからローザンヌへ抜け、
レマン湖を船で渡ってジュネーヴに入り、ユースホステルで1泊。
明けて4月26日のダイアリーである。

ユース近くのカフェで朝食をとった。
オムレツにクロワッサン2つ、デニッシュ1つ、
バター、チーズ、ジャム、カフェオレ、コカコーラ、
総額4.5フラン以下は安い。
久しぶりに充実の朝めしとなった。
イタリアよりうまいとは思わないがドイツより洗練されている。

イギリス公園、モンブラン橋、ルソー島を廻る。
レマン湖の大噴水も見たし、
はるか遠く、モンブランも眺めることもできた。

ジュネーヴ駅のビュッフェで軽い昼食後、グルノーブルへ発つ。
頭の中を「白い恋人たち」のメロディーが回り始める。
作曲はフランシス・レイ。
ちょうど1月前、横浜の大桟橋を出る数日前に
レイが音楽を担当した「ある愛の詩」をロードショウで観た。
テーマ曲が心に深く残っている。

途中、キュロッツという山中の小駅で乗り換え。
このとき、列車内で前の席にいた仏人の女の子が
いろいろ教えてくれ、とても助かった。
彼女の行く先もまたグルノーブル。
以降、一緒に行動したというより、連れられていった感じ。

キュロッツ駅構内のカフェではコーラをごちそうになる。
彼女の名前はヨランダ、リセに通う17歳の高校生だ。
2歳年上の男子学生が2歳年下の女子高生におごられる。
こんなことでいいんだろうか、日本男児?

たどたどしい会話を交わすうち、グルノーブルに到着。
高原の駅よ、こんにちわ。
別れ際、ヨランダからほっぺたにキスされて胸が騒ぐ。
もしもこの町にとどまっていたら、たぶん恋仲になったろう。

グルノーブルはヒドく英語の通じない土地だった。
バスストップの場所をたずねるにも一苦労。
それでもどうにかユースにたどり着く。
バスの窓からアラン・ドロンの新作映画のポスターが見えた。
ポール・ムーリスとナタリー・ドロンが並んでいる。

ホステルの責任者は中年のマダム。
食事は出せないがキッチンの設備は整っているから
何か自分で作りなさいとの指導。
自炊をすすめられてもなぁ、日本男児はここで困ってしまった。

またもや日記の中途ながら、以下は次話で―。

=つづく=