2015年1月9日金曜日

第1009話 D坂下の交差点 (その3)

旧臘、三崎坂の中華屋「砺波」を数か月ぶりで訪れた。
相変わらずオバさん(女将さんデス)がテキパキと元気、ゲンキ。
それもただ元気なだけでなく、彼女の気ばたらきがこちらに伝わって
客の居心地をよりよいものにしてくれている。
大手外食チェーン店のバイト嬢による、
マニュアル通りの空疎な接客スタイルとは
根底から異なる温かみに満ちているのだ。

いつものように注文はビール大瓶&野菜そば。
周りを見渡すと、いや、小体な店だから
あえて見渡すまでもないが先客は誰もいない。
手酌でキリンラガーをコップに注ぎながら思う。
あゝ、いつの日かサッポロ黒ラベル、
あるいはアサヒスーパードライを併用してくれないものだろうかと―。

最近、とみにキリラガの苦みを受けつけなくなった。
苦さが文字通り苦痛になっってきている。
若い頃からキリンはけして嫌いじゃなかったのに
年とともに嗜好の幅が狭まって、わがままになるんだねェ。
と言いながらも一昨日、またソイツを飲んでいた。

その朝は明け方5時にJR鶯谷駅前の居酒屋「信濃路」にいた。
それもこんな時間にたった独りで―。
この店は年中無休の24時間営業につき、
行く先に窮した場合、逃げ込むにはまことに都合がよい。
いわば、マイ・ラストシェルターなのだ。

それにつけても正月早々、
何だって朝っぱらから鶯谷なんかにいたのかネ?
ここで多くの読者は、おおかた都内屈指のラブホ街に
どこぞの若いオンナとしけ込みやがったなと邪推するのであろう。
いえ、いえ、品行方正なJ.C.に限り、かような淫行はありえましぇん。
いや、例えそうなったとしても不名誉でも何でもないけれど、
一応、世間体ってものがありますぞなもし。

さて、脇道にそれた「信濃路」だが今回の訪問であらためて感じた。
実に小汚い飲み屋だネ、ここは―。
目の前にはキリラガの大瓶と
野菜そばに代わって不味そうなイカフライの皿が並んでいる。

いやこの朝、つくづく実感した。
プレミアムモルツ、エビスビールに続き、
いよいよキリンラガーにも決別を告げる日がやって来たのだ。
もう、このオンナとは別れるしかないな・・・そんな心境でありました。

おまけに合いの手のイカフライがヒドかった。
サカナのフライに比してハズレの少ないのがイカフライの利点、
しかるにこれでは元の木阿弥もいいところ。
仕方なく添えものの繊切りキャベツにウスターソースでもぶっかけて
ビールのアテにしようと思いきや、
何やらデフォでドレッシングがふりかかってるじゃないの。
いやな予感を抱きつつ、一箸つまんで口元に運ぶ。

ギャッ! 
と、驚いたところで以下は次話。

=つづく=