2017年3月2日木曜日

第1570話 ある日旅立ち (その4)

東海道本線の二宮駅のホームで焼きそばを食べ終え、
2缶目のビールを平和に飲んでいた。
現れたのはバックパッカーのアンちゃんである。
おにぎりを旨そうに食っている。
中身がツナマヨじゃなく、しゃけでよかった、
そう思ったのもつかの間、再びゴソゴソやって何か取り出した。

エッ? あちゃ~、そりゃないだろヨ。
出てきたのは500ml の紙パック。
ペットボトルではないから緑茶やウーロン茶じゃないのは明らか。
ぎりぎりミルクなら許そうと思っていた。
いや、許すも何も当のアンちゃんの知ったこっちゃないがネ。

何とソイツはリプトンのミルクティーときたもんだ。
しゃけのおにぎりに冷たいミルクティー。
俺ゃこんな組合わせイヤだァ!
以前、銀座の鮨屋のつけ台にて
コーラで鮨を食うネエちゃんを見掛けたが
それに比べりゃ多少はマシか―。

そんなことよりこれからの自分の行動である。
実はこの日、18時には東神奈川へ戻らねばならなかった。
数ヶ月前に紹介した大衆酒場、
「根岸家」で一飲の約束があったのだ。
よって熱海か、せいぜい三島、沼津あたりが限界、
清水や静岡まで遠征する時間的余裕はない。

ベンチに腰掛けたまま、
うららかな陽光に向かって目を閉じた。
途端にまぶたの中がオレンジ色に染まる。
そうして身の振り方を思案した。

あらためて過去を振り返り、
二宮の町は未踏であることに気づいた。
缶ビールと特製焼きそばのために途中下車した二宮。
袖振り合うも多生の縁、
ハナから思い悩むことなどなかったのだ。

改札を出て南口に通ずる階段を降りた。
人影がほとんどない。
東海道線の南側にはほぼ並行して東海道が走っている。
いきなり幹線道路には出ず、しばらく裏筋を歩く。
時の流れに取り残されたかの一帯は
昭和の匂いふんぷんである。

昔はどの町にもあった青果店が店先に品物を並べている。
客の姿は一人としてない。
薄暗い店内の奥に店の女将さんだろうか、
老婆が胡乱な眼差しでこちらの様子をうかがっている。
怪しいよそ者が何しに来た?
両のマナコがそう訴えている。

=つづく=