2017年3月17日金曜日

第1581話 鰻屋で鰻食わずに何を食う? (その4)

両国橋のたもと、芥川龍之介の生地にほど近い、
「神田川支店」の座敷にくつろいでいる。
墨田区はアサヒビールのお膝元、
スーパードライでまずは乾杯だ。
楽しい一夜となることに何の疑いもない。
ビールを運んでくれた女将に鰻肝焼きを二人前追加した。

前菜は三点盛り。
陣容は菜の花ひたし、鳥胸肉白和え、まぐろ角煮である。
それぞれに味は悪くないものの、
鰻屋で鳥肉やまぐろはトンチンカンな印象が否めない。
殊に白和えの上にイクラが3粒ほど。
鳥に魚卵を散らすかネ、まったく。

お替わりのビールとともにサービスの骨せんべいが供された。
サービス品はありがたき幸せなれど、こいつがやけに硬い。
奥歯を傷めるんじゃないかと心配しながら慎重に噛み砕く。
う~ん、あまり旨いもんじゃないな。

ところがそのあとの肝焼きはすばらしかった。
串には肝だけでなくヒレや向こう骨も打ち込まれており、
まことにけっこうな二串だった。
季節外れの天豆(そらまめ)まであしらわれている。

肝と天豆でビールがすすむけれど、
ここで菊正の樽酒に移行した。
杉の木の薫香が鼻腔をやさしく刺激する。
いや、樽酒は好きだなァ。

ほどなくすっぽん鍋の用意が整った。
小さなグラスには日本酒で割った生き血が注がれている。
これで精力倍増ということもなかろうが
たじろぐ相方を尻目に一気に飲み干した。

6年前にもいただいたすっぽん鍋は
そのときと寸分の違いとてなく、
かつお出汁に薄塩仕立てのあっさりタイプ。
鍋には燗酒といきたいところながら樽酒も実によく合う。

煮立った鍋をのぞくと、すっぽんのほかに
長ねぎ、えのき茸、生麩、車麩の姿が見える。
2種のお麩の共演がうれしい。
生麩と焼き麩ではこうも違うものかと、
感心しつつ舌鼓を打つ。

主役のすっぽんは控えめな量ながら滋味深い。
スルスルとのどを滑り落ちて
これだったら一人二人前は軽くイケちゃうだろう。
上品なつゆを合いの手に樽酒をグビり。
誰が言い出したか知らないけれど、
”月とすっぽん”なんてすっぽんに失礼だろうヨ。
”花よりだんご”にゃ賛成しかねるが
J.C.には断然、”月よりすっぽん”でありまする。

=つづく=