2017年3月3日金曜日

第1571話 ある日旅立ち (その5)

JR東海道線は大磯の一つ先、二宮の駅そばを散策している。
図らずも通りすがった八百屋の婆さんに
あらぬ疑惑を生じさせてしまったらしい。
例え流れ者とてアメリカの西部劇じゃあるまいし、
そんな目で見つめなくても・・・。

もっとも一度だけチラリと視線を交わしただけで
すぐに当方が目をそらしたから
そのあと婆さんがどこを見ていたのか判らない。
ここでお互いジッとにらみ合ったら、
野良猫同士の鉢合わせ同様、
下手を打ったら喧嘩に発展しないとも限らない。

くわばら、くわばら・・・。
なおも開けている店もまばらな商店街をゆく。
ビール2缶と軽めの焼きそばでは少々もの足りないし、
夜の酒場まで腹持ちも悪かろう。

すでに正午を回っているから
町の中華屋、定食屋は暖簾を掲げているだろう。
そうは思ったものの、駅前に弁当屋があっただけで
日本そばやラーメンの類いすら見当たらない。

ほどなく国道1号線こと、東海道に出た。
左右見渡しても店舗らしきものはない。
幹線沿いならドライバー目当ての食事処があるハズ。
とり合えず大磯方面へテクテクと歩みを進めた。

途中、孫らしき幼児と飼い犬を連れた老人とすれ違う。
「ちょっと、すいません。
 この近くに食堂みたいなお店、ありませんかネ?」
今来た道を振り返って老人曰く、
「このまま真っ直ぐ行くと右側に『えびや』ってのがあってね、
 そこは旨いですよ」
おお、よかった、よかった。

足元を見ると、犬はソッポを向いてるけれど、
孫が爺ちゃんの返答を保証するかのごとく、
ウン、ウンとうなずいている。
ときどき家族そろって晩めしを食べに行っているのだろう。

よし、よし、「えびや」か、期待してよさそうだな、
そう、直感したことであった。
その地点から歩くこと5分、
爺ちゃんのおっしゃる通り、右手に「えびや食堂」が見えてきた。
もちろん東海道沿いである。

店先に立つと、古い造りながらかなりの大型店舗だ。
多少、商売上ありがちなあざとさが匂わないでもないが
そうでもしなけりゃ客を呼び込むのが困難な時代だ。
ハコが大きいから満席の憂き目はないハズ、
余裕で入店に及んだ。

=つづく=