2019年3月14日木曜日

第2088話 なにも言うまい 青砥の一夜 (その2)

そうして降り立った葛飾区の青砥駅である。
当夜の狙いは「かまとと」なる奇妙な屋号の大衆割烹。
海の幸の取り揃え豊富にして
店内には昭和歌謡が流れているそうだ。
シーフードもさることながら
惹かれたのはもちろん懐メロのほうである。
自分の家でCDを聴きながら飲めばいいじゃないか、
そう思われる読者もおられようが
それじゃ気分が今一つ乗ってこないんですわ。

駅前のメインストリートを北に歩く。
地図を持たずに向かったものだから
右折地点をオーバーウォーク。
そのせいで少々迷ってしまい、10分ほどロスしただろう。
何とか灯りの点る立て看板を見つけ、
入店前に外の品書きボードをチェックする。
よしっ、ホウボウの刺身で始めるとするか―。

引き戸を引くと、さして広くもない店内はギチギチの満席状態。
ザッと見回して席の確保は不可能と判断した。
厨房に立つ優し気な店主に
「お一人様?」と訊かれ、
「はい、そうです」と応じると、
店主、奥に居た奥様ならぬ、女将に
「お一人様で~す!」

ええっ、どこに落ち着くべきわが椅子があるの?
でも、まだスペースがあるんだなと
ほのかな期待を抱いたものの、結局は薬局。
「すみません、本日はいっぱいでして・・・」
やっぱりネ、まっ、仕方がないヨ。
ここは何も言うまい、嘆くまい。

夜道をトボトボと駅方面に戻る。
振り返れば、青砥の町で飲んだ記憶がない。
かれこれ15年以上前に
「やまぐちさん」という名の洋食店で
ランチを取って以来の来訪だ。

駅の高架下に京成直営のスーパーマーケットがあった。
数年前、茨城県・水戸市に出向いた際、
京成百貨店で買い物をしたことがあるが
今も残っているのかどうかは知らない。
それはそれとして、京成のスーパーは初めてだ。

中を一めぐりすると、生鮮食品のレベルは高い。
珍しいメキシコ産のステーキ用牛肉があった。
それも稀少なザブトンである。
一目見て質の良さを確認できたから
よほど買い求めようと思ったものの、
これから飲み歩くってえのに
持ち運ぶのはうっとうしいし、
どこかの店に置き忘れそうなのであきらめた。

=つづく=