その翌日、出没したのは田園調布。
此処は大正年間に渋沢栄一らが造成した町だ。
この日はふた月に一度の理髪日。
その前に東急目黒線をオーバーランして来た。
行く先は大阪鮓「醍醐」、この町の一つの顔である。
駅舎の中にも持ち帰りの店舗を備え、
改札の内から外から買うことができる。
ここで畑中葉子の「後から前から」が
脳裏をよぎったものの、やっぱりやめとく。
べつに大阪の小姑がコワいわけじゃなく、
あまりにお下品で当ブログには似合わないからネ。
敷居をまたぐと先客はナシ。
つけ台に着こうとしたら
親方らしき翁にテーブルを促された。
江戸前なら断固拒否するところ、大阪だからまあいいや。
品書きを開く。
主力は関西鮓ながら江戸前鮨も扱う。
きちんと“すし”の字を書き分け、
箸袋には「御寿司
田園調布 醍醐」とあった。
ただし、大阪鮓を関西鮓と表記するのは当店だけ。
ヨソで見たことは一度もない。
イチャモンはつけたくないけど上方鮓がよりスマート。
本日の狙いは鮎の姿ずし、この季節ならではだ。
1尾ではもの足りないが2尾食べるものでもないから
箱ずしを3~4つ見繕ってもらった。
暑い日に熱いお茶を飲みながら待つ。
コレは粉茶ですな。
10分少々で運ばれ、さっそく尻っ尾から。
尾を食いちぎるのはイヤだが
身肉も付いてるので仕方ない。
下半身から攻めて最後の頭はそっくり外し、
酢めしだけを漬けしょうがとともに―。
鮎の姿ずしはハッキリ言って美味しいものではない。
皮目は硬いし、雀(小鯛)や鯖のほうがいい。
では、なぜ注文するのか?
季節を愛でるためであり、目を楽しませるためである。
あしらわれた一茎の蓼(たで)の緑が美しくうれしい。
葉を噛んだらピリッとした辛味が舌先を襲った。
押しずしは目鯛、海老、玉子、穴子などなど。
しかし、鮨にせよ、鮓にせよ、寿司にせよ、
ビール抜きで食べるのは数十年ぶりだ。
こらえ切れずにノンアルを所望したらキリン零ichi。
この夏、初めて飲んだノンアル・ビールは
サントリー、アサヒ、キリンを制覇したことになる。
背に腹は代えられず、水にビールも代えられない。
それにしても二日連続ノンアルとは―。
哀しむべし。
「御鮓所
醍醐」
東京都大田区田園調布3-1-4
03-3721-3490