2012年1月13日金曜日

第229話 やっぱりヒイキの引き倒し (その1)

旨い!美味しい!素晴らしい!
評判を聞きつけて遠路はるばる出掛けてみると、
悪くはなくとも存外だったりすることってけっこうありませんか?
わが身を振り返ると、しょっちゅうなんだなこれが!
イヤになっちゃう。

映画なんかにもこういうケースがちょくちょくある。
「絶対に面白いから観て、観て!」―
例えば歳の離れた女性にこう言われて実際に観てみると、
あにはからんや、強烈な肩透かしを食らうことが多い。
あながちこちらが歳を取りすぎたせいばかりではあるまい。

小説もまさしくそうだ。
日頃から映画はともかく小説のケースは
絶対、口車に乗らないように心がけている。
さんざん今まで苦い経験をさせられてるからネ。

さて、秋刀魚で有名な目黒。
駅から徒歩15分ほどの距離に
すんばらしいイタリア家庭料理を供する店があるという。
小体な店で席数が限られていることもあり、
なかなか予約が取れないそうだ。

電話を掛けてもいつも話し中のところは
行かないことにしている。
どうしても行きたいというヤツにつき合うときは
ソイツに予約を取ってもらっている。
それが世の、人の、道理というものであろうよ。

このときは一発で電話がつながった。
地番は目黒4丁目で
バスで行くなら最寄りの停留所は旧競馬場。
そう、1933年まではここに競馬場があったのだ。
その名残りが中央競馬・重賞レースの目黒記念である。

15分くらい”ヘ”でもないからトコトコと歩いていった。
以前、世話になった出版社の編集者を引き連れて―。
フフフ、比較的安価な店だから大した出費にはならんしネ。

旧競馬場のちょいと先に油面なるエリアがあり、
かつてそこの商店街に「巴仙」という日本そば屋があった。
場所が場所につき、通ったというほどではないけれど、
たびたび出向いて行った。
大好きなそば屋であったなァ、旨かったなァ。

釣ってきたんじゃなかろうが
水槽に泳いでる稚ハゼを天ぷらに揚げてくれ、
ソイツでやる冷たいビールは堪らんかった。
もちろん、そば自体もグンバツであった。
オヤジさんが病気でもしたんだろうか、
ある日突然、暖簾をたたんでしまった。
J.C.も驚いたけれど、トワ・エ・モワもビックリしたであろうよ。
エッ、何のこっちゃい? ってか?
ハハハ、「或る日突然」つながりでんがな。

そうしてこうして到着しました、
「メッシタ」なるジェノヴァの裏町のバールみたいな店に。
ビールはハートランドの小瓶。
キリンの製品ではこれが一番好きだから一安心だ。
グラスを合わせ、壁の品書きを見上げる二人であった。

=つづく=