2012年1月17日火曜日

第231話 バッテラとベッタラ (その1)

いつの頃からか、ひかりモノが好きになった。
自分で金を稼ぐようになり、
鮨屋に出入りし始めてからだから
欧州放浪の旅を終えて帰国した1975年以降であろう。

子どもの頃は自分にあてがわれた鮨桶の中に
小肌を見つけると鳥肌が立つほど忌み嫌った。
母親の玉子と自分の小肌をいつも交換していたっけ・・・。
それが何の因果か、ひかりモノ大好き人間になっちまうのだから
人生、その軌跡の一寸先は
闇であろうと光だろうと、凡人の知り及ぶところではない。
たまたまJ.C.の前には”ひかり”が待ち受けていただけである。
上手いネ、どうも!
ハハハ、自画自賛してしまった。
ごめんネ、ゴメンね!

次なることは過去において何度も書いてきたし、
しゃべくってもきたので読者や知人の中には
「何だ、またかヨ!」とおっしゃる向きもおられよう。
目には目ダコ、耳には耳ダコの方には少々我慢をいただいて
ハナシは浅草・馬道の「弁天山美家古寿司」に飛ぶ。

初訪問は忘れもしない1978年。
ちょうど隅田川の花火が復活した年だ。
初めて口にする今は亡き四代目のにぎった小肌に鳥肌が立った。
同じ鳥肌でも子どものときの鳥肌とはまるで意味が違う。
あれが負の鳥肌なら、こちらは正の鳥肌である。
以降、「美家古寿司」に通うことたびたび、
平目昆布〆・小肌・穴子がマイ御三家となった。
これは35年を経た現在も変わらない。

ヨソの鮨屋でも真っ先に訊ねるのはひかりモノの取り揃え。
小肌に限らず、あじ・きす・春子・さより・いわし・秋刀魚、
果ては、にしん・えぼ鯛・ままかりにいたるまで
酢〆であらば何でも好きだ。

ただし、鯖だけは二の足を踏むこともしばしば。
このサカナ、ヤケに脂が強いことが多々あり、
脂ヤケでもしようものなら、箸にも棒にも掛からない。
何せ、英文の魚図鑑には
indigestible fish = 消化不良を起こしやすい魚
とあったもんネ、くわばら、くわばら・・・。

したがって〆鯖はパスすることのほうが多い。
ところがギッチョン、バッテラだけは別物なのだ。
アレは鯖本体と酢めしのバランスがよく、
仲を取り持つ白板昆布、通称・バッテラ昆布がよい風味を醸す。
これが上等にしてぜいたくな鯖棒寿司になってしまうと、
鯖の量が多過ぎてシツッコくなり、好みではなくなる。

とある夕まぐれ。
散歩がてらに幡ヶ谷・笹塚方面で食いもの屋を物色していた。
そして、とある料理屋の店先の品書きに目がとまった。

心惹かれる一品多し

簡素な店構えにも好感

ほう、バッテラがあるではないの。
ちょいと1杯引っ掛けたいが
当夜は笹塚の「常盤食堂」で取材をしなければ・・・。
相棒との待合わせ時間が迫っていることでもあるし、
うしろ髪を引かれつつ、品書きをカメラに収めるだけにした。

=つづく=