2012年1月27日金曜日

第239話 廃虚の猫 (その3)

♪   人はだれも 悪いことを
   覚えすぎた この世界
   築き上げた 楽園(ユートピア)は
   こわれ去った もろくも
   誰も見えない 廃虚の空
   一羽の鳩が とんでる 真白い鳩が
   生きることの 喜びを
   今こそ知る 人はみな   ♪
           (作詞:山上路夫)


タイガースの「廃虚の鳩」。
加橋かつみがヴォーカルを担当していて
ここで歌われている廃虚は原爆ドームを指している。

おっと、広島ではなく東京は高田馬場の廃虚であった。
そこで鳩ならぬ猫に遭遇し、異物を見てたじろいだところだ。
J.C.をあとずさりさせたのは
忌まわしくも1匹のドブネズミの死骸であった。
それも相当デカいヤツ。
猫にしてみりゃ、獲物を見せびらかしているのであろう。
獺(かわうそ)が獲ったサカナをお供えのように陳列するさまを
獺祭(だっさい)と呼ぶが、まさしくこれは猫祭(びょうさい)だ。
いや、はや、それにしてもイヤなもの見ちまったぜ。

廃虚に立ち、四十有余年前に思いをめぐらせた。
Kはいかにしてこの場所を探り当てたのだろうか?
大学で出会った唯一の友人がKで、彼とはどこかウマが合った。
お互い高校時代にサッカーをしていたので
親近感が湧いたのかもしれない。
当然のように2人は大学の体育もサッカーを選択した。

ある日、体育の先生(助教授かな?)が
出席回数の足らない学生たちに奇抜な提案。
彼が率いるサッカー同好会、「稲穂キッカーズ」と試合をして
勝てば欠席の3回分、引き分けても1回分を
出席扱いにしてくれるという実に粋な計らいであった。

これにゃ燃えたネ、いや、張り切った。
何かを賭して闘うことは男の本能を刺激し、血潮をたぎらせる。
KもJ.C.も奮闘努力した結果、3-0 の大楽勝ときたもんだ。
大学に入ってから趣味で始めた同好会の連中を
サッカーとともに育ち盛りを過ごしたわれわれが
文字通り、軽く一蹴した次第である。

もっともこの翌月、過激派学生が校舎をロックアウト。
勝ち取った出席3回分は意味のないものになってしまった。
ノンポリのJ.C.にとってロックアウトはいい迷惑だったが
おかげでバイト、麻雀、ビリヤードに明け暮れる日々、
実によく稼ぎ、大いに遊んだものである。

あの頃、街に流れていたのはは辺見マリの「経験」。

♪   わかってても あなたに逢うと
   いやと言えない ダメなあたしネ
   だから今日まで だから今日こそ
   きらいにさせて 離れさせて   ♪
           (作詞:安井かずみ)


様々な経験をした1970年だが、それから間もなく、
最近、一躍脚光を浴びている由紀さおりの歌声を
八月の濡れた砂の上で聴くことになった。

=おしまい=