2012年12月12日水曜日

第467話 やはり鰻はおかしいゾ!

「有楽町で逢いましょう」に始まり、
「嵐を呼ぶ男」で終わった山手線めぐり。
先日、裕次郎がドラム缶をたたいた五反田を訪れた。

 ♪  終電時刻を確かめて あなたは私と駅を出た
   角のフルーツショップだけが 灯りともす夜更けに
   商店街を通り抜け 踏切り渡ったときだわね
   待っていますとつぶやいたら 突然抱いてくれたわ
   あとからあとから涙あふれて うしろ姿さえ見えなかったの
   池上線が走る町に あなたは二度と来ないのね
   池上線に揺られながら 今日も帰る私なの     ♪
                    (作詞:佐藤順英)

だしぬけにシンガーソングライター・西島三重子の「池上線」。
作詞の佐藤サンは実体験をもとにこの詩を書いた。
でも実際にフラれたのは歌詞とは逆に彼のほうらしい。
数分後に別れる二人が降りた駅は池上駅。
角にフルーツショップがあったとしても
ほかには池上本門寺しかない寂しい駅である。

池上線は五反田と蒲田を結ぶ東急電鉄の路線。
品川区と大田区の間を弧を描いて走るローカル線だ。
今もこの電車に乗ると、西島三重子の歌声が耳にこだまする。
沿線の戸越銀座や洗足池は
デートにピッタリで訪問者の老若を問わないのがエラい。

池上線の始発駅・五反田に戻ろう。
その日、所用が片付いたのは18時過ぎ。
日はとっぷりと暮れている。
身を置くところは何軒もあるが新規開拓にいそしむことにした。

駅前ロータリーを超えて歓楽街に入り込み、ブラつくこと30分。
何となしに「松月」なる鰻屋の前にたたずんでいた。
店頭にはランチの品書きが残っている。
天丼・海鮮丼・金目鯛煮つけ定食が1000円。
柳川定食が1200円で特うな丼は1500円。
もつ煮込み定食(950円)なんてのもあったが、これは高い。
ほかはともかくも特うな丼がずいぶんと低価格じゃないか。
しかも鰻は愛知県の一色産だという。

最近、鰻じゃロクな目に逢っていないがダメ元で飛び込んだ。
女将との短い会話で奨められた菊定食(1800円)をお願いする。
あとはビールと必注の肝焼き(300円)だ。
肝焼きは値段が値段だけにこんなものか。
肝臓の姿なく腸管ばかりなのは肝吸い用にレバーを抜いた証し。

ホンの15分ほどで整った菊定食。
あまりに貧相な鰻はほとんどどぜうの蒲焼きだ。
ひからびていて本来の味も香りもしない。
隣りにこれまた小さなどぜう柳川鍋。
あとはおざなりな香の物とお吸い物。
やっちまったヨ、安物買いの銭失いとはこのことであった。
やはり鰻はおかしいゾ!

長居は無用と早々に腰を上げる。
支払いの際に女将がひとこと耳元でささやいた。
「お口に合いましたでしょうか?」
合うわけないから話題をそらすほかはない。
「ここしばらく鰻屋さんは大変でしょうねェ」
「ええ、本当に、あまり値上げはできませんし、苦しいですヨ」
(こんな鰻を食わなきゃならない客だって苦しいヨ)
言葉を飲み込んで、独りゆく夜の五反田の街。

「松月」
 東京都品川区東五反田1-16-3
 03-3441-6365