2012年12月18日火曜日

第471話 こんなそば屋がありました (その1)

都の春いまだ浅い頃、
暖かな土曜日の散歩は板橋区・西高島平でスタートした。
ここは都営三田線の終着駅だ。
大きな団地のある高島平は住人以外に
地下鉄(地上だけど)の乗降客がほとんどいないと思われる。
よしんば何もなくったって構わないから
とにかく沿線を歩いてみようと心に決めていた。

新高島平―高島平―西台―蓮根―志村三丁目ときて
まあ、本当に何もないんだわ、ビックリするくらいに。
志村坂下から坂上に上って行く途中に
名も知らぬ小さな庭園があり、そこに立ち寄ったのみ。
そうしてやって来た志村坂上である。

これより先の中仙道沿いは土地カンがある。
このときふいに浮気心がアタマをもたげた。
どうせなら知らない地区を散策したい。
即断即決、駅前の交差点を左折し、
小豆沢方面に進路をとったのだった。
中学生の時分に小豆沢公園内の区営プールで泳いだが
辺りの光景に見覚えもなく、未知の町同然だ。

折れてから1キロほど歩いたろうか、
北区との区界を越えてすぐ、1枚の看板が目に飛び込んできた。
思わず足を止めて見上げましたネ
ちょっと小さくて読みにくいかな?
とにかく都の内外を問わずにあちこち歩き回り、
気になる飲食店の観察に余念のない身ながら
こういう看板を掲げる店は見たことがない。

店主の要望通りに”是非御来店して試食”したかったが
昼食を済ませたあとで、いささかムリ筋。
( I shall return !)を心に叫び、
後ろ髪引かれつつも赤羽方面へと歩を進めた。

それから実に半年後、やっと訪問の機会を作った。
正午前に暖簾をくぐると、けっこうな客入りである。
昼食時の人気メニューはそば定食(700円)の模様。
店のオネエさんに内容を訊ねると、
日替わり定食に冷やかけか温かけが付くという。
その日のおかずはチキン南蛮だった。

量的に絶対多いよなァ、懸念したものの、
そうなったらそうなったで
晩めしをセーブすれば済むこと、挑戦する気になった。
一度腹をくくってしまえば
輪をかけて太っ腹になるのがJ.C.の悪いクセ。
勝負事で調子がいいときは
カサにかかって攻める性格だからねェ。

そいでもってどうしたかというと、
ビールを1本追加しちゃいました。
注文してはみたものの、ビールが運ばれた瞬間に
さっきの強気はどこへやら、オネエさんに伝えました。
「ごはんは半分以下でお願いします」
われながら弱っちいや。

=つづく=