2012年12月3日月曜日

第460話 穴子の活作り

鰻はすっかり庶民には手の届かぬ高級魚。
本まぐろの中とろより高価になった。
そこへいくと鰻によく似た穴子は経済的弱者の味方だ。
鯵や鯖や秋刀魚のような大衆魚とはいえなくとも
デパ地下・スーパーで売られている蒲焼きの値段は
鰻と穴子じゃ雲泥の開きがある。
弱きを助ける穴子のような肌合いの持ち主を
穴子肌ならぬ姐御肌と称する、ナンテことをネ。

数ヶ月前、夜の散歩中にたまたま出会い、
気に入った根津の「海鮮茶や 田すけ」は
店頭の品書きにあった穴子の刺身に惹かれたのだった。
血液にイクチオトキシンなる毒素を持つ鰻の刺身はアウトだが
穴子なら刺身で食べてもOK。
なのになぜか日本では一般的でない。
韓国・釜山の海岸に連なる屋台じゃ、ポピュラーなんだがな。

こういう貴重な美味は仲間と分け合おうというのがJ.C.イズム。
ある土曜日に召集をかけると、集まったのは5名。
H野サン、欣チャン、Hしクン、A薙クン、M原サン。
いずれ劣らぬ食いしん坊揃いが
L字形カウンターに鉤の字座りだ。
本来、穴子刺しは金曜限定だが
予約時にちゃんと人数分の仕入れをお願いしておいた。

前菜の盛合わせは総じて悪くはない。
あん肝だけはちと生臭くてアカンかった。
穴子の前に出てきた〆さばはよい。
のどぐろの一夜干しは小ぶりながらもそれらしき味がする。
威勢がよくて咬みつかれそう

ここでお待ちかねの穴子刺しが登場。
さっきまで活きていた穴子
鰻職人のように目打ちするのではなく、
氷水に放って凍えさせ、
動きを封じてさばくから時間も手間も掛かるのだ。
したがってほかの料理を作りながら
時間差で一人前ずつ配膳される。
J.C.のはラストの1尾ということになる。

この夜は生わさびと生醤油を持ち込んだ。
鮨屋じゃないから生わさびがないのは仕方ないとして
溜り醤油だけというのは関東人にかなりシンドい。
今はむかし、京都の鮨屋で一桶のにぎり鮨を食べたとき、
店のオバさんが運んできた醤油の小皿をのぞいて
(ババア、ブルドッグソースと間違えやがったナ)
そう思ったものだ。
京都で鮨なんか食うもんじゃないわいな。

おろし立ての本わさでいただく活穴子の旨さよ!
5人の仲間にとって生の穴子は初体験。
それぞれに歓んでくれ、
連れてきたかいがあったというもの、よかった、よかった。

ところがたった今、
念のために調べてみたら鰻ほどではないにせよ、
真穴子の血液にも弱い毒素が含まれているらしい。
J.C.は何度か食べて何ともないから大丈夫だとは思うが
乳幼児や老人には食べさせないほうが無難かもしれません。

「海鮮茶や 田すけ」
 東京都文京区根津2-18-3
 03-3827-3737