2012年12月26日水曜日

第477話 有楽町でロードショウ (その3)

こうして読み返し始めた松本清張の短編集。
”読書の秋”ならぬ、”読書の師走”である。
早くも30篇ほど読みくだしたが
名作・佳作は昭和30~35年に集中していますな。
なぜだろうか?
この頃の清張サンは脇目も振らずにただ、ただ、まっしぐら。
流行作家としての確たる足場をまだ築いたわけではないから
持てる才能のすべてを投入して全力投球だもの。

昨日紹介した「声」と、その二ヶ月前に発表された「顔」は
ともに初期の傑作として呼び声が高いが
あまりにも恣意的な偶然性が鼻につかないでもない。
もっともこれはミステリーに必ずついて回る避けがたき欠陥。
この点をあまり神経質に追求すると、
作品の展開力を極端に拘束することになるので痛し痒しだ。

「一年半待て」、「地方紙を買う女」は誰もが認める秀作。
宮部みゆきサンが責任編集した、
「松本清張・傑作短編コレクション(上・中・下)」にも
しっかりと収められている。
「恐喝者」、「共犯者」、「捜査圏外の条件」もまたしかり。
宮部サンが大好きという、「鴉」は筋書きにムリがあるうえ、
ラストの御都合主義的尻切れトンボがどうにも許しがたく、
J.C.にとっては嫌いな作品の代表格になっている。

「声」、「顔」がはずれているけれど、
彼女が選ばなかった作品群(篇数に制限もあろうが)では
「草」、「愛と空白の共謀」、「怖妻の棺」あたりが好き。
茶目っ気じゅうぶんなおかしみや
すがすがしい読後感を残してくれる作品が
非常に少ない清張サンにあってキラリひかるものがある。。

宮部サンは「コレクション下巻」の冒頭で
「タイトルの妙」と題し、一筆したためている。
題名を上手につけるのは難しいと、作家の悩みを告白している。
しかるに彼女によれば、清張サンは名タイトル製造機なんだそうだ。
確かに「点と線」、「砂の器」はそうであろう。
でもネ、昭和26年の流行歌、「上海帰りのリル」が
効果的に使われる「捜査圏外の条件」はあんまりだろう。
これじゃあまりにモロ、まったくもってそのまんま東、
味気ないったらありゃしない。

「潜在光景」や「削除の復元」、
「愛と空白の共謀」(名作なのに)や「恐喝者」も気に入らない。
「剥製」や「詩と電話」なんてのもつまらない。
昭和33年1月発表の「点」という陰気な小品があるが
この時期は彼の一大出世作、長篇「点と線」の連載真っ最中。
「点と線」のさなかに「点」でっか?
ヨーロッパの作家は「夜と霧」の連載中に
「夜」なんて作品を世に送らんでしょう、いや、ジッサイ。

=おしまい=