2013年3月5日火曜日

第526話 言問橋と吾妻橋 (その3)

水面に灯りを映す吾妻橋を渡っている。
このシチュエーションだと、
口をついて出るのは健サンの「唐獅子牡丹」。

♪  おぼろ月でも  隅田の水に  
  昔ながらの  濁らぬ光  
  せめて夜明けの  来るそれまでは
  意地でささえる 夢ひとつ
  背中で呼んでる 唐獅子牡丹  ♪  
    (作詞:水城一狼/矢野亮)

せっかくだから映画のラストシーンを真似て
並び立つ花田秀次郎と風間重吉のように
肩で風を切りながら歩きたいが
その筋のオアニイさんとすれ違ったりしたら
イチャモンをつけられかねない・・・やめとこう。

当夜、予約を入れたのは観音裏の「ニュー王将」。
一人もしくは二人の場合は5席しかないカウンターに決めている。
手の空いた店主夫妻と交わす会話が楽しいからだ。

ビールは飲んで来たから
ハナからボトルキープの芋焼酎・縁(えにし)でよいが
サッポロラガー、いわゆる赤星の中瓶を1本もらった。
最初のつまみ、刺盛りの陣容は槍いか・平目・中とろ。
千住大橋の足立市場で仕入れた魚介は良質である。

本日のスペシャルに本マスが居た。
サクラマスの呼称のほうが通りがよいかもしれない。
淡水魚のヤマメが海に下っておよそ1年後、
桜花咲く季節に回帰したものをこう呼ぶ。

フライとムニエルがあり、ムニエルをチョイス。
揚げものならのちほどメンチカツかハムカツサンドをいただく。
ともに相方・P子の大好物、、
必ずどちらか、あるいはどちらも頼むことになる。
芋ロックのピッチが速いのはお互いさま。
近況を報告するのもお互いさま。

テーブル席の客からナポリタンのオーダーが入った。
すかさず店主のヤッチャンにハーフポーションをお願いする。
カウンターの特権が他人の注文にハーフで便乗すること。
こうすれば品数をこなせる。
造り手の二度手間にならないよう配慮しながら
ちゃっかりご相伴にあずかるわけだ。

ラストはメンチカツにトースト&バターでいった。
実際はバターでなくマーガリンだけどネ。
自宅の冷蔵庫には居ないマーガリンもたまには悪くない。
「ニュー王将」のトーストサンド(カツやハムカツの)は
みなパンにマーガリンが塗られている。

料理の品数を抑えたのは締めによそでラーメンの腹積もり。
向島の元芸者置屋、「らん亭」に狙いを絞っていたが
寒空に人気(ひとけ)のない桜橋を渡るのは気がすすまなくなった。
人恋しさにも拍車をかけられ、
観音裏から表側に進路を変えた男と女の影二つ。

=おしまい=

「ニュー王将」
 東京都台東区浅草5-21-7
 03-3875-1066