2013年3月13日水曜日

第532話 みぞれまじり 砂まじり (その4)

歌の文句とは打って変わって砂まじりどころか、
砂ぼこりすら立たない茅ヶ崎の街に独り。
まずは内陸側の北口を徘徊する。
東海道線沿線の駅の常で北口はあまり面白くない。
海辺側の南口のほうに活気と雰囲気がある。
まあ、駅によっては例外もあるがネ。

さっそく寄り道横丁なんてのに出くわしたが
寄り道に値するとも思えない。
横丁の二筋手前に中華料理屋が四軒連なる路地があった。
いったいこれは何なんだ! プチ・チャイナタウンかいな?
中では一番手前の「横浜飯店」がもっとも盛況だ。
それにしても何て店名だろうか。
いくら大中華街を擁する横浜とはいえ、あまりにベタじゃないか。
茅ヶ崎のプライドはどこに消えたんだ。

南口に移動してさらに徘徊を続ける。
何だかんだ能書きたれても勝手知らない街を歩くのは楽しい。
30分ほど散策して目ぼしい店が見つからず、駅に戻った。
駅前のバスターミナルの端っこ、
交番の隣りの二階に気をそそる居酒屋を見つけておいたんでネ。

駅に隣接するようにあった店の名は「升源」。
そういえば御殿場に向かう途中、
プラットホームから看板が見えていたっけ・・・。

18時半くらいに引き戸を引いて
「うわっ!」―思わず出た叫び声。
右を向いても左を見ても、あふれんばかりの客の群れに
ビックリしたヨ、驚いた。

カウンターにもテーブルにも空席が見つからず、
あきらめ掛けたところに奥から手招きするオバちゃんありき。
「オニイさん、カウンターの奥、左の角に一つ空いてるからネ」―
いいでしょう、いいでしょう、
こちとら単身、椅子は一つでじゅうぶんでござんす。

何よりも”オニイさん”、この響きがいいじゃないの。
地道な人生を歩んでいれば、
孫の一人や二人は抱いていてもおかしくないわが身、
くれぐれも”オジイちゃん”と呼ばれなくてよかったぜ、イエイッ!

席にありつけてつかのまハッピーではあった。
ただし、カウンターの奥で生ビールを飲みながら思った。
席は厨房とホールをつなぐ出入り口のすぐ脇で
オマケに隣りはトイレットときたもんだ。
トイレに行き来する客が通るたびに床はミシミシ。
いかんせん居心地が悪いんだよなァ。

=つづく=