2013年3月8日金曜日

第529話 みぞれまじり 砂まじり (その1)

ひと月以上も前になるが、富士山麓の御殿場を訪れた。
平方根の√5を ”富士山麓オウム鳴く”と覚えた若き日。
あの頃は身にも心にも汚れがなかった。
そんなことはさておくとして、数学はからっきしダメだったなァ。

御殿場に来たのはこれが初めて。
もともと山は好きじゃないから仕方がない。
でも御殿場の名前からは

 ① 陸上自衛隊の演習場
 ② VISA太平洋マスターズ
 ③ プレミアム・アウトレット

以上、三点が連想され、
歴史に敬意を表して古い順から並べてみた。

自衛隊にはご苦労さんと言いたいが
生まれてこのかた、入隊を希望したことは一度もない。
ゴルフもクラブを納めてから早や十年余の月日が流れた。
アウトレットにいたっては、まったく興味がございやせん。

では、何を好きこのんで真冬の山間部に踏み入ったのだろうか?
これが本人にもよう判らんのですわ、ハハハッ。
強いて言えば、そこに山があるからだ。
てなことはなく、たまたまその日が朝から晩までヒマだった。
未訪の近場に日帰りで出掛ける気になっただけだった。

東京駅から乗った電車を国府津で御殿場線に乗り換える。
昭和9年に丹那トンネルが開通するまで
東海道本線はこのルートをエッチラオッチラと走っていたのだ。

御殿場駅に到着すると、いや、寒いのなんの。
標高差がもたらす寒気だろうが
ンなこと気にせず、普段着のまま来ちまっただヨ。
J.C.の冬の普段着は基本的にコートなしである。
まあ、小1時間も歩けば身体が温まるだろうと駅をあとにしたが
ほどなくチラチラ小雪が舞いだした。
ありゃあ、あられだかみぞれみたいなのも混じってやがる。
コートもなければ傘もない、オマケに富士山なんか見えるわけもない。

やみくもに歩き回って駅周辺に戻る。
ここで凍える身体は「妙見」なる鱒寿司の老舗に遭遇した。
店先に立つと、急に空腹感に見舞われた。
ところがちょうど14時~15時半の休憩中ではないの。
腕時計の針は15時ちょい過ぎを指している。

すぐそばに書店があり、時間つぶしに立ち寄った。
40年近く前に読んだ松本清張の推理小説、
「黄色い風土」に確か御殿場の演習場が出てきたような・・・。
おぼろげな記憶を確かめようと書棚を探したものの、
当作品は見当たらなかった。

そうこうするうち15時半。
開店早々だといかにも待ち構えていたみたいで
(実際そうなのだが)何となく小っぱずかしいから
10分ほど無駄に時間をやり過ごし、
余裕しゃくしゃくのしたり顔で暖簾をくぐった。

=つづく=