2013年3月14日木曜日

第533話 みぞれまじり 砂まじり (その5)

サザンオールスターズが一躍有名にした茅ヶ崎。
駅から1分の「升源」で何とか席を確保した。
駅の南北をさまよって白羽の矢を立てた店だ。

茅ヶ崎ならば評判の居酒屋、
「えぼし茅ヶ崎本店」の存在は知っていた。
神楽坂の「蕎楽亭」で修業した店主が
独立して開いた「蕎房 猪口屋」も認知している。
だがネ、どちらも駅から遠いんですわ。
平塚寄りの相模川河口に近い柳島海岸ってとこにある。
おそらくサーファーを当て込んだ商売をしてるんだろうな。

キリンラガーの中ジョッキをグイッと飲み干し、
頭上の品書きを仰ぎ見た。
御殿場の「妙見」でちらし寿司を食べたばかりだから
空腹にはほど遠い。
何かちょこっとしたものを1品でいいや、でな心積もりでいた。
だが、こういうときに限ってそそられるモノが目につくんだ。

最初に目に飛び込んだのはこの2品。

 カシラを特製にんにくダレで!!  満洲焼き  ¥170
 網脂を巻いたレバのやきとり  網巻きレバ ¥170

どちらも好きだが、この店はミニマム2本から。

 丸福の酢タコ ¥600
 おつまみタコス ガーリックトースト付き ¥550

これも気になった。
たまたまどちらもタコだが、殊に酢タコのほうは
福の字が〇で囲まれており、名の通った造り手によるものだろう。
帰宅後に調べたら仙台は丸福水産の品物だった。

結局、頼んだのはごくフツーのレバたれを2本。
満洲焼きや網脂巻きを見送ったくらいだから
よほど食欲がなかったんだろうネ。

この文言にも注目させられた。
なるほど、そういうことか!

心よりお願いされちゃ、従わざるをえませんや。
レバの1片を前歯で咬みざまに串を引き抜いた。

トイレの真ん前のせわしない席は最悪かと思ったものの、
目の前のカウンター内にはオバちゃんと若い娘。
彼女たちの仕事ぶりが丸見えのうえ、交わす言葉も筒抜けだ。
オンナというのはスゴいねェ、この忙しいのによくしゃべるんだ、ジッサイ。
けっこう際どいハナシの内容をここで明かすことはできないが
聴いていてまったくあきないもん。
思い直せば独り飲みには最良のシートだったかもしれないな。
人間万事、塞翁が馬ってこった。

=おしまい=

「升源」
 神奈川県茅ヶ崎市幸町1-8 岡崎店舗2F
 0467-86-9496