2013年6月14日金曜日

第599話 ボルドーで途中下車 (その3)

ボルドーへはマドリッド発パリ行きの夜行列車を途中下車した。
人生初めての欧州旅行では12カ国を周ったが
長期滞在したパリ以外に訪れたフランスの都市は3箇所。

最初のグルノーブルに惹かれたのは冬季五輪(1968年)の影響だ。
映画「白い恋人たち」は鮮烈で
フランシス・レイのテーマ曲は日本中に流れていたからネ。
マルセイユはやはり映画「ボルサリーノ」のおかげ。
フランス版「ゴッドファーザー」ですな。
もともと小ぎれいなとこより、犯罪の匂い立ち込める街が好き。
そしてボルドーである。
ワイン畑に興味はなくともワインの一大産地は見ておきたかった。

マドリッド―ボルドー―パリ。
ここで1971年の旅日記から、あの3日間を紹介してみたい。
コクヨの横書きのノートに青いインクの万年筆で書かれている。
しばし、おつき合いくだされ。

5月1日
 マドリッドのユースホステルで目が覚めて気づいた。
 昨日、どこかで400ペセタ落としちゃってる、ガックリ。
 あいにくの雨天、昼過ぎから同宿の日本人数名でダベリ会を開催。
 甘口のVino(ワイン)をみんなガブガブ。
 そぼ降る雨の中、駅へ両替に行く。
 そこでK島クンとまたもや偶然に出会った。
 この旅行、彼とは3回目の奇異なる遭遇だ。
 同伴していた米人の女の子、フラン&クリスを紹介された。
 フランは知的で美しく、クリスはお茶目で可愛い。
 アメリカ娘、捨てがたし。
 Y.Hの晩メシを急いで済ませ、ノルテ駅へ。
 初めてのヒッチだったが、中年のオジさんが一発で停まってくれた。
 ムーチャス・グラシャス! 
 ノルテ駅にて先刻の3人とまた会い、コーヒーブレイク。
 乗った列車はシュド・エクスプレス。
 走り出した車内でK大の教授と一緒になり、少しく談話。
 一等車で寝ていたら、車掌に見つかって追い出される。
 あゝ、無情!

K島クンは横浜―モスクワ間を
交通公社の”Look欧州片道の旅”で一緒になった一歳年長の留学生。
三度の奇遇(こんなこともあるもんだ!)はローマで二度、
マドリッドで一度、これについてはまた稿を改めて詳述したい。
彼にとっては少々不名誉かもしれないが
もう40年以上のときが流れているし、
けっこう面白いうえに旅行者の参考にもなるから許してもらえるだろう。

一等車で寝ていたというのは
J.C.が携帯していたのは2ヶ月間有効のステューデント・レイルパス。
欧州13カ国の鉄道の二等車に限り、乗り放題のパスだった。
一方、K島クンのは1ヶ月のユーレイル・パス、これだと一等車に乗れる。

深夜、彼のコンパートメントに忍び入ってチャッカリ寝付いたところ、
車掌のヤツ、よく見ていやがったなァ、
ピンポイントで顔に懐中電灯を照射されたもの。
あのときの車掌の強面、
「レ・ミゼラブル」のジャベール警部に生き写し。
J.C.、しょんぼり退場の巻である。

=つづく=