2013年6月26日水曜日

第607話 豆腐畑につかまって (その3)

文京区・根津の「とうふ工房 須田」にて日曜日のひととき。
朝食も昼食もメニューは”いなり御膳”ただ一品。
注文する手間が省けて
接客のオバちゃんの「お食事ですか?」の問い掛けに
客はただ「ハイ」とひと言応えるのみ。

待つこと数分で食膳が運ばれた。
百聞は一見に如かず、ご覧くだされ。
一面豆腐と油揚げだらけ
一見に如かずといえども、よく判らんから注釈を加えよう。

手前は二口サイズの豆いなりが5カン。
酢めしを包む油揚げはあっさりと炊かれて上品な味。
都内、ことに下町に散在するおいなりさんの専門店に
なじみの深い向きにはいささかのもの足りなさが残ろう。
なぜなら郷愁を誘う、あの甘じょっぱさがないからだ。
ご覧のように漬け生姜もちゃあんとあしらわれている。
丁寧な仕事ぶりと言えよう。

左奥のまあるいお月さまみたいなのはすくい豆腐。
”いなり御膳”を名乗ってはいても主役はこれであろうヨ。
しっかしデカい。
朱塗りの椀を手に取ったとき、ズシリときたもんネ。
おそらく300グラムは下らない代物だ。

だけどサ、豆腐っていちどきに
こんなに食べるものじゃないんじゃないの。
「お塩だけでも美味しく食べられます」との仰せに最初は従う。
でも、やっぱり途中で飽きてくる。
さすがにカツ節はなかったが
たっぷりのおろし生姜とさらしねぎに助けられ、
奮闘努力してみたものの、
結局は薬局、1/3をやっつけるのがやっと。
いや、マイッタぜ。

満月クンの隣りの小皿は一見玉子焼きのよう。
しかしてその実態は豆腐田楽なのだった。
焼き豆腐に田楽味噌が塗りたくられておる。
味噌は日替わりで朴葉味噌だったり鳥味噌だったり。
薄めの味付けが多いなか、
味噌のしょっぱさに白飯がほしくなる。
でも、これとて2切れでじゅうぶん、3切れは多いや。

田楽の右側も一見ヨーグルトのよう。
これはシメジの豆腐ドレッシングと称するものだ。
何だかつかみどころのないひと鉢で
女性には好まれようが、オトコの食べものではないネ。
殊に酒飲みは一顧だにしないのではないか。
表面に散らされた白胡麻がどことなく白々しく空しい。

右を向いても左を見ても豆腐と油揚げの絡み合い、
どこに男の夢がある。
豆腐畑につかまって、ホンの1~2切れでいいから
焼きたら子か塩ジャケがほしくなってきた。

=つづく=