2013年6月27日木曜日

第608話 豆腐畑につかまって (その4)

そぞろ歩きの名所、谷根千は根津の「とうふ工房 須田」にて
豆腐畑につかまっちゃってる。
いや、マイッタな。

昨日、ご覧に入れたその畑の説明のつづきだ。
え~と、どこまでだったかな。
豆腐ドレッシングのあとですネ。
食膳をぐるり一周して手前右にきた。
これは味噌椀。
ここにも豆腐と油揚げがドッサリである。
それに青ねぎが散見された。
正直に言うと、この味噌椀が一番美味しい。

白羽二重の如き豆腐クンにはほとほと飽きちゃった。
豆腐好きを自認してきたものの、
たかだか一食にして自信が砕け散りました。

おっと忘れるところだった。
生姜とねぎの右手に湯呑みが見えるが
これは冷たい豆乳。
お豆腐サンはもう勘弁と観念し切っているところに
最後の最後で豆乳を投入される始末であった。
ちと大げさかもしれないが、泣きっ面に”みつばちマーヤ”だ。

豆乳をやっとこサ飲み干してため息をつく。
ここで突然、脳裏をよぎったのははるか昔に観た1本の邦画だ。
おそらく1961年、大田区・平和島の美原映画劇場だった。
市川雷蔵主演の濡れ髪モノで・・・
いや、橋幸夫と共演した「おけさ唄えば」だったかな?
とにかく雷蔵が、とある宿場の旅籠で豆腐責めにあい、
辟易とする場面が出てきた。
そうだよなァ、シツッコさとは無縁の豆腐なのに
まとめて出されると、なんでこんなにシンドいの?

振り返れば、この界隈は豆腐の名所と言えるかもしれない。
鶯谷に向かい、善光寺坂を登り切ってしばらく、
フランス菓子で有名な「イナムラ・ショウゾウ」の手前あたりに
都内屈指の造り豆腐屋がある。
大正3年創業の「藤屋豆腐店」は今も井戸水で豆腐を造っている。
「豆腐は8割が水だから、良い水で豆腐を造りたい」―
見上げた信念である。

鶯谷駅前、古くは根岸の里と呼ばれた場所に
こちらは創業320年を誇る豆腐料理店「笹の雪」がある。
ここでは豆腐畑につかまった自覚はなかった。
終始美味しく食べられたのだ。
もっとも豆腐以外に焼き鳥なんぞもつまんだけれど・・・。

店のHPには
「笹乃雪の井戸水は、数百年かけて武蔵野から
 到達する水脈を地下80メートルから採水しています」―
こうあった。
いやはや、恐れ入りやした。

鶯谷のすぐ東側には地下鉄・日比谷線が走っているが
本郷・春日のように
4路線が縦横無尽に走りまくっているわけではない。
地下鉄工事のせいでほとんど壊滅状態になった都内の井戸。
「藤屋」、「笹の雪」にも
やがては井戸の枯れる日がくるかもしれない。
良質な豆腐を食べられるのは今のうちということか。

=おしまい=

「とうふ工房 須田」
 東京都文京区根津2-19-11
 03-3821-0810