2013年12月9日月曜日

第725話 クラブが出て来てこんにちは (その2)

近隣のスーパで購入した千葉産のアサリ。
砂抜きのために張った塩水の中に
小さな生きものを発見したハナシのつづきです。
百聞は一見に如かず、とくとご覧くだされ。
それは蟹であった
貝殻の中に潜んでいたに違いない。

蟹クン、しばらくはジッとしていた。
その後、静かに着地を試みてひとしきり歩き回った末に
1粒のアサリの下に隠れた。
徘徊中の蟹
アサリやハマグリを食べているとき、
このような小蟹に遭遇することがある。
しかし、それは貝と一緒に料されたあとの亡骸。
小さな身体もほのかな緋色に変色している。

今は昔、1980年代初頭。
丸の内北口にある「丸の内ホテル」内の仏料理店をよく利用した。
建て直す以前の建物は準シティホテルといったたたずまいで
現在の姿とは趣きがまったく異なっていた。

記憶は定かではないものの、
フレンチは確か「バンブー」という名前ではなかったろうか。
気に入りの料理はハマグリのクリーム煮だったが
ここで三度続けて貝の中に小蟹を発見した。
「へぇ~っ、こんなこともあるもんだ!」―
率直な印象を抱きつつ、そのまま食べたっけ・・・。

懐かしのレストランも
今は「ポム・ダダン(のど仏)」とその名を変えている。
ポム・ダダンは英語のアダムズ・アップル、
そう、アダムのリンゴだ。
なるほど仏料理で、のど仏ですかいな。

以来、貝の中の蟹にはたびたび出くわしている。
そしてこの現象は貝が蟹をエサとして捕獲し、
サァ、これからいよいよ食ってやるか・・・そう思った瞬間に
今度は貝自身が人間に捕らわれてしまい、
食事どころではなくなったものと信じていた。

今回なんとなくふと気になって調べてみると
意外なことが判明した。
この小蟹の正体は英名・ピンノで和名はカクレガニ。
貝に捕まったのではなく、
自らの意思でプランクトンの頃より
貝の中に移り住んだ永遠の居候だった。

生まれて初めて宿った貝の中で一生を過ごし、
貝が死ねば自分もあとを追う、
というか、エサを捕る術(すべ)を知らないから
生き延びることができないのだ。
一蓮托生とはまさにこのことで
自然界の不思議ここに極まれり、でありましょう。